「ぐ・・・ぐろぉりぃい・・・ぐらうんど??ですか?」
「ハイ!グローリーグラウンドです」
「な・・・何県の何市なんです?ソコ・・あ!京都とか大阪とかの府かもしれないし・・・と、都内かもしれないわよね!そうよね!」
「ケン?シ?フ?・・トナイ?・・ああ、街や村や、共和国や王国のコトですわねv王都レインヴァードを含めて、すべての国があるのがそのグローリーグラウンドですわ」
「アカン・・・ツグミちゃん、ウチ、アタマこんがらがってきてもーた・・・あとパスな・・・」
「エエ!?そ・・・そんなぁ、雫さんズルイ・・・」
「ってコトは・・・どうやらホントなんですね・・・え!?ホントにホントなの!?」
目の前でただニコニコと笑顔で佇む、ドレスを着た美女を前に、そんなある種、そりゃそんな反応になるよな?といった反応を示す若いママ友たち。
香坂雫などはすっかり「もうウチお手上げ・・・」といった感じを表情態度前面に押し出し、実家とも言える神社の畳にパタン、と横になった。
そんな彼女に、母親でもある櫻子が「こら!しぃ!エエ年こいて人様の前ではしたないっ」と小さく叱責する。
「あのぉ〜・・・?異世界って・・コト・・・ですか?」
「まぁ。混乱する気持ちはわかる。それがごく自然の反応だろう。しかし、とりあえず、私もこの目で見たから・・・本当のコト・・らしい」
「近藤さまが説明してくださると、助かりますわ」
と、ニコニコ顔のまま、ドレスの美女、イリーナは近藤勇蔵にそう笑いかけた。
グローリーグラウンド、リッツロックの滝でのフォースクリスタルデュエルに何とか勝利して帰ってきた悠奈たち。
神鳥池を所有する、七海の祖母、櫻子が神主を勤める神楽神社。
その座敷内で、グローリグラウンドから来た謎の男、パーシーをめぐるちょっとした騒ぎが治まったと思ったのも束の間、なんと集まっていたママたち、草薙鶫、香坂雫、観月里佳の目の前に、そのグローリーグラウンド、王都レインヴァードの若き女王、イリーナ・グランディスその人が、突然姿を現してしまったのだ。
手品というにもあまりなイリーナの登場に、当然のコトながら唖然としているママ友3人。
煙とともに現れたこの目の前のドレスを着た女の人は何者なんだ?というような表情を前面に押し出している。
ちょっとおかしな人なんだろうか?ニコニコとある意味不気味に微笑んでいるイリーナと自分達の間の空気の温度差、それに気まずくなってママ友4人、皆一様に顔色が引きつる。
そして同様に顔を引きつらせて冷や汗ダラダラだったのは、子ども達とヴァネッサ先生である。
なんでこんなトコに?
しかもこんなタイミングで?
おまけに目の前にいきなり ポンっ! って。
どこをどう考えたってヤバイって!不審人物マックスじゃんっ!
そんでもって、なんでもういきなり唐突にグローリーグラウンドとか言ってんの!?
イリーナさまイミわかんないからっ!
そんな考えが悠奈の頭の中をぐるぐると駆け巡る。
そう考えていたのは、日向をはじめとする他のチルドレンズもそして傍で見ていた保護者連中も一緒であった。
そしてそのままグローリーグラウンドがどうとか、レインヴァードがなんたら、魔法がどうたらとさらに謎と不審が募る説明をはじめ出したイリーナに、もうコレは自分だけでは手に負えないっ!と判断したヴァネッサは、急いでスマホを取り出して近藤勇蔵に連絡。
幸いにも会社の取引関係で土方歳武と一緒に、近くの祭礼具メーカーに来ていた勇蔵は、ヴァネッサからの連絡をもらい、コレは一大事と歳武と急遽別れて、ヴァネッサの元へと駆け付けたのだ。
その間ずっと続くこの意思疎通のできない押し問答。
ママ友連中の顔色も混乱と疲労がありありと浮かんできている始末である。
「・・・京くん、ねえ・・・どうしよっか?このジョーキョー・・」
「えぇぇ〜〜〜・・・ソレ今ココで俺に振るかぁ〜・・・?えっとぉ・・えぇ〜とお〜・・・よし、こーなりゃユキに使ってるような得意の言い訳作戦・無式でっ!」
「あ。京にーちゃんよけいなコトしないで。どーせ失敗するから。邪魔しないで。コッチで考えるから。ユウナ、ちょっと考えがあるからユウナも手伝ってくれる?」
「ヒナタくん?・・・うん、わかった」
「・・・・・・。」
「・・・アンタ・・・ホント、どんだけ人望ないのよ?なかなかあんなコト言わないコよ?ヒナちゃんって」
コトの状況を、魔法や異世界の単語は用いずに、なんとかうまいコト伝えようと、なんとか頑張ろうと気合を入れた京にーちゃんだったが、そこで可愛いヒナちゃんからまたしても痛烈なダメ出しを喰らう。
うな垂れて半泣きな京にさり気なく止めを刺すヴァネッサ。
元はと言えばアンタがオレに振るから・・・っ!と、文句の1つも言いたそうなところだったが、そんな彼らを尻目に悠奈と日向がママ友4人、愛澤詩織、草薙鶫、香坂雫、観月里佳の正面に立つと、日向が真面目な口調でこう切り出したのだから京の意識もその方へと集中してしまった。
「あ・・・あのさ・・おかーさん。ユウナのママもナナミもママも、ヤオランのママも・・・ちょっとオレのハナシ、聞いてくれる?」
「え?」
「ヒナ?」
「なんや?どないしてんヒナちゃん、急にそない深刻なカオして・・・」
「なにかわたしたちに相談事?」
「うん、あのね。ココにいるイリーナさまっていうのは、グローリーグラウンドっていうココからちょっと遠いトコにある外国の島の、遊園地のオーナーさんなんだ」
「え?・・・エエっ!?」
「?」
「ひっ・・ヒナタ!?」
「ちょっとっ!ヒナタくんっ!?」
と、唐突にもほどがある日向のカミングアウトに。
ソレに驚いたのは悠奈ばかりではない。傍にいたレイアもイーファも、他のメンバーや大人たちも予期していなかった日向の答えに目を丸くして彼を見つめていた。
遊園地って、いきなりナニソレ?
と例に漏れず顔を引きつらせて驚く悠奈に対し、日向は「いいから任せて」と小声で言うと、パチリとウインクして笑った。
「あのね。グローリーグラウンドっていう大きな島の遊園地を、今造ってる最中なんだって。いろんなアトラクションがあって・・・えっと・・・おとぎ話に出てきそうなカッコイイ街がたくさんあってね・・・それで・・・えっと、えっと・・・イメージが、さっき言ってた異世界・・・と、魔法なんだって」
「そ・・・そうなの?」
「そうっ!で、このイリーナさまって人、ヴァネッサ先生の知り合いで、オレたち、ソコのえっと、なんだっけ?え〜〜・・・・っと・・・・・あ!ぱ、ぱ・・・パフォーマー・・だっけ?そうだ!で、スカウトされちゃったんだ!」
「まぁ!日向くんや、ウチの悠奈ちゃんも!?」
「そうなんだ、ユウナやオレだけじゃなくって・・ナナミもヤオランも、アキちゃんもヒカルちゃんも、ココにいるみ〜〜んな、そーなんだ!」
「ほえ??なぁに?ぱふぉ〜ま〜って・・・ねえねえナミちゃん、サラちゃん、レナたちってパフォーマーじゃなくってセイバーチルドレンズだよね?」
「おお、そのハズだよな?パフォーマーってアレだろ?ピエロとか、何とかショーとかに出てくる・・・」
「ちょ、ちょっとヒナちゃん、いったいどーゆー・・・」
「ナミ、ちょっと、静かにしとき」
「ええ?でも、ヒカルちゃぁん・・・」
「いいから。なかなかおもしれえコトやってんぜ?まったく・・・アイツめ」
「ヒナの考えがわかんねえのか?いいからオマエら余計なコトしゃべらねえで大人しくしてろ。ヒナの好きにやらせてやんな」
と、日向の言葉に納得できない感じで思わず異を唱えそうになる他のチルドレンズメンバーだったが、日向の考えにすぐに気づいたらしい光や晃、麗の制止によって那深と咲良だけは一拍遅れながらではあったが、日向の考えが理解できて、口を閉じた。
ソレは、悠奈も、七海や窈狼も同じだったようで、事の次第を静かに見届けている。
唯一、麗奈だけはよくわかってないようで、「はにゃ〜?」と首をかしげていたが、やはり子どもの直感、ある種の洞察力というのは凄いものなのだろう。
一方の大人達は、未だに「え!?ナニ?そのハナシ!?」と日向を驚愕の目線で見つめながら固まっている。コト冷静沈着な勇蔵ですらが、日向の意図がわからず、やや引きつった面持ちを見せているくらいだ。
と、そんな大人達の反応を知ってか知らずか、日向はさらにママ達に続ける。
「今ね、そのグローリーグラウンドっていう遊園地にお客さんがたくさん来てほしいから・・えっと・・・そうそう、オレたちに、なんか、ショーをお願いしたいんだって。そのメンバーに選ばれたんだ。ね?イリーナさま」
「あらら・・・ウフvそうね。そうだったわね。ヒナタくんやユウナちゃんたちが助けてくれるのよね」
と、イリーナも日向の意図を理解したようで、ニッコリ笑って日向に返すと、そのまま背後の大人達メンバーに向かってもパチリとウインクした。
「そ・・・そうか。いや!そうそう!そうなんスよ!いやぁ〜、スンマセン!オレから説明しようと思ってたのに、なんか、その遊園地、今、ヒナタが言ったみたいに、テーマがファンタジーを基にした異世界らしいんスよ!で、まだアトラクションとかも開設途中みたいで、で、イベントとして、魔法やモンスターがたくさん登場するファンタジーショーをやるみたいなんですよ!それに、ヒナタやユウナちゃん、ウチのガキたちも選ばれまして・・ハハ・・・」
最初に日向の考えに気づいたのは、保護者連中の中では陽生が最初だった。
彼は意図を汲み取るとあっという間に話を合わせて、今度は自分がと、詩織や鶫たちに話を展開する。
彼の行動で、大人達もようやく、なぜ日向がいきなりこんな身も蓋もない話を突然しだしたのかようやく理解した。
「いやぁ〜・・まさか突然こんなスカウトが来るなんて思っても見なくって、ホント・・・で、流石に子ども達だけじゃなにかと気がかりですから、ヴァネッサ先生や近藤先生とかが保護者になってくれるって話をしてたところだったんスよ。ね?ヴァネッサ先生!」
「え?あ!ウンウンっ!そうそうそうなの!ですよね?近藤先生?」
「ん?あ?・・・ああ、そ、そうだったな。う、うむ・・・」
と、咄嗟に陽生に話を振られたヴァネッサと勇蔵も、慌てて必死に取り繕い、返事をする。
その様子を見て、突然のイリーナの登場に怪訝そうに顔を見合わせていたママ友連中も、ホッとした様子で胸を撫で下ろした。
「なんやぁ〜。そーやったんかいな。最初ソコのおねーちゃんが異世界やなんや言うから面倒なコトに巻き込まれたんかと思たけど・・・ヴァネッサ先生や近藤先生もそう言わはんねやったら安心やわぁ〜、しっかしウチの悪ガキが・・・それってちゃんとバイト料もらえんの?あ、ホラこのコまだ小学生やし、もちろん未成年やし、このコの分の稼ぎってウチもらえんのんちゃう?」
「コラ、しぃっ!はしたないコト言うんやないの!」
と、今だ先程こっぴどく叱られてママにすがりついて泣いている七海の頭をぐりぐりと乱暴に撫でながらそんなコトを聞く雫を、母親である櫻子がぴしゃりと窘める。
七海のパーシーに対する度の過ぎたイタズラを同じように叱りつけたばかりだったが、やはり孫娘のあの時々見せる傍若無人な性格行動はこの娘に似たのだろう。
と、ソコで勇蔵も意を決したように、フゥ、と息をひとつ吐くと、「本来こういう話をすのは気が引けるが・・・」と小声で漏らしてから、ママ友達に向かってこう切り出した。
「急な話になって申し訳ない。ですが、今、日向くんや陽生くんの言った通り、ひょんなことからこのイリーナ女史を通してこういった内容の仕事の依頼が子ども達に舞い込んできたコトは事実です。そして、ヴァネッサ先生並びに、私も子ども達の情操教育の一環としてお受けしようと思います」
勇蔵の言葉に、ヴァネッサは驚くというよりも、やっぱり・・・という感じで彼の横顔を一瞥すると、自分も心を決めたように、ママ友たちの方へと向き直ると大きくうなづいた。
「こういった行動は、何か人の役に立つという達成感や自己肯定感を子ども達の中に芽生えさせますし、こういった経験を通して、彼らの絆がより深まるというコトもあるでしょう。子ども達が将来大人になるためには、体験させておくことも教育的価値感上、有益なことと思いますが・・・」
「もちろん!子ども達に危険が無いよう、わたし達保護者がしっかりと監督します。お預かりする身として、お子さんたちの身の安全は間違いなく保証いたします!」
と、今までになく強い口調でそう言う勇蔵とヴァネッサの姿を見て、どうしようか?という風に互いの顔を見やるママ友たち。
顔色にもちろんそれぞれの個人差は見て取れたが、共通してどのママからも感じられたのは「心配」という感情だったのだろう。
ソレを見て取って、ひとつ息を吸い込むと、悠奈は自分自身を勇気づけるようにうなづいて、ママ達に切り出した。
「ママ、あのさ。ちょっと聞いてくれる?ヒナタくんのママも、ナナミのママもヤオランのママも・・・」
今まで沈黙を保っていた悠奈がここで突然自分達に面と向かって口を開いたことに、ちょっと驚いて、ママ友達は皆一様に悠奈の方へと眼を向ける。
「ユウナちゃん?」
「どうしたの?急にそんな真剣な顔になって」
「あ!?ひょっとしてまぁたナナになんやイタズラでもされてんか?エエで?遠慮なく言うてもろて。もう、ホンマにロクなコトしぃひんのやからなこのガキンチョは!」
と、先程ぶたれたばかりでまだひりひりと全力で痛むお尻をぺしんっ!と軽くはたかれて七海が「ひうっ!?」と悲鳴を上げたが、悠奈は「そ、そんなんじゃなくて・・」と慌ててかぶりを振って訂正し、もう1つ呼吸を直して話し始めた。
「イリーナさまは・・・ううん。グローリーグラウンドのみんなはね?今、だれかにホントに助けて欲しいんだと思う。上手く言えないんだけどさ・・・みんな、すっごく困ってて・・・パパもママも、あたしに困ってる人がいたら、助けてあげると、みんなが幸せに、笑顔になれるよ。って、言ってたじゃん・・・」
その言葉に詩織は「ハっ」と小さく息を呑む。ママの目を正面から見据えてさらに悠奈は続けた。
「今が、そうじゃないのかな?って思う。イリーナさまも・・・パーシーも、あたしたちを頼ってくれてるのに、今ココであたしたちがダメだって言っちゃったら・・・笑顔になれないじゃん。」
『・・・・・』
「だからね。決めたの、あたし・・ううん。ヒナタくんも、ナナミも、ヤオランも、ヒカルくんもアキラくんも、ナミちゃんもサラちゃんもレナちゃんも、レイも。あたしたちみんなで、グローリーグラウンドのみんなを助けてあげようって・・・」
詩織ママはもちろんのコト、鶫や雫、そして里佳。その場にいたママ友連中みんなが、凍りついたように、悠奈の方を見つめて動けず、言葉を発することもできずにいた。
たった小学三年生。十歳にも満たぬ女の子が真剣な眼差しで語った決意。
その凛とした迫力は、子どもでありながら大の大人である自分たちを圧倒していた。
「すばらしい決意ですね。感動しましたわ。私が聞いていたよりもっと素敵で愛らしい女の子だったんですね、彼女は」
と、そんな場に聞こえて来たのはまた別の声。
悠奈たちを含めた全員が、ハッとしてその声の主の方を振り向く。
イリーナやフェアリー、悠奈、詩織ママたちがいる隣奥の襖には、いつの間に現れたのか?長い艶やかなストレートの黒髪と、清楚さと凛々しさが融合したような独特な雰囲気をもつ、日本美女が立っていた。
真っ赤なスーツに身を包んだ黒髪の、まさに大和撫子。
見れば、彼女の背後にはその人もいつの間に来ていたのだろうか?土方歳武のすがたもあった。
美女が軽く微笑んで頭を下げる。
その暖かで、それでいてどこか涼やかなその笑顔はその美貌と相まってミステリアスな雰囲気をも醸し出していた。
誰だろう?このキレイなおねーさんは?
悠奈がそう思ったのと、周囲から複数の声が上がったのは、ほぼ同時だったろうか?
「神楽!?」
「ちづるちゃん!?」
「ちづるねーちゃんっ!?なんでっ!?」
声を上げたのは、京、雫、七海の三人だった。
「え!?し、知り合い?」と現れたおねーさんと、七海たちを交互に見やって眼をパチクリさせている悠奈、それは他の子どもたちも同じらしく、気づけば大人たちまでもポカンとした表情でその美女を見つめている。
美女はパチリと京たちに向けてウインクを返すと、そのまま近づいてきて、悠奈の正面に立った。
女性にしては背の高い、ちづると呼ばれたおねーさんに見下ろされて、悠奈は一瞬たじろいだが、すぐに目の前の女性は悠奈に優しく笑いかけて、しゃがんで目線の高さを同じにしてくれた。
そして、悠奈の手を取って、優しい、温かな口調でこう言った。
「はじめまして。私は神楽ちづるといいます。アナタが悠奈ちゃんね?ナナミから聞いてます。転校してきた可愛い女の子と仲のイイお友達になれたってすごく喜んでたわよ」
「え?あたしのコト・・・しって・・るの?」
「ナナミからね。でも、今のアナタの言葉を聞いて、ナナミから聞いたよりもっと素敵なコだってわかったわ。本当、よかったわねナナミ。こんなにイイお友達ができて」
そう言って七海に振り返る神楽ちづると名乗ったおねーさんに「ちょっ・・ちょっと、ちづるねーちゃん!?よけーなコト言わんといてやっ!」と焦った声を上げる七海。
当のおねーさんは「あら?素直じゃないのね」とすまして返しながら、立ち上がると、ママ友連中を見ながら、静かに、しかしきっぱりと言い放った。
「皆さん。突然のコトでやや混乱しておいででしょう。ですが、今、この悠奈ちゃんが言ったように、このグローリーグラウンド救出プロジェクトは、新選グループ並びに、我が神楽財閥も全力を賭して子ども達の決定をサポートする決定を下しました。従って、今後、この場にいるこの子ども達の安全は我が神楽神具(かぐらしんぐ)も全力を挙げてサポートする所存ですので、どうかご安心の上、子ども達の決定を尊重してくださいませんでしょうか?」
ちづるのこの言葉を聞いて、不安が前面に出ていたママ友たちの間から、
「ちづるちゃんがそない言うねやったら安心してもエエんちゃうかな?」
という声が聞こえてきた。
「雫さん?」
「アハハ、ゴメンゴメン。イヤ、あんなぁ、気ぃついてる人もおる思うケド、ウチも神楽の身内やねん。このちづるちゃんは、ウチの従兄、ナナにとったら従妹叔母にあたんねんな」
「神楽の身内って・・・雫さん、旧姓は神楽なんですね」
「やから、この神社かて神楽神社やろ?ウチらの家が分家、ちづるちゃんの家が本家で・・・まぁ細かいコトはこの際エエわ。用は親せきやねん。ナナかてちっちゃい時から可愛がってもろてんしな」
「そうやねえ、神楽神具が・・・本家がサポートしてんねやったら安心しておまかせしてもええかもしれんわなぁ」
と、詩織の言葉には雫だけでなく、今まで傍で冷静に傍観していた櫻子までもがニコニコと柔和な笑顔でそう返事する。
神楽神具と言えば、神祭礼具などで日本を代表する一大メーカー企業である。
政界にも幅広いコネを有し、年末年始や全国各地のお祭りには祭礼具の納入のみならずイベントの開催まで大きな影響力を担っていることは詩織も一雑誌編集者としてもちろん知ってはいたが、まさか雫の家がその神楽の家流だったとは。
「・・・わかりました。そう言うコトなら、お任せしましょう。ね?詩織さん」
「り、里佳さん?」
「大丈夫ですよ。コレだけ大きな企業や信頼できる大人の方が保証してくれてるんだから、イイ遊園地なんですよきっと。ヤオ、アナタもやってみたいんでしょ?」
「え?・・・う、うん!」
不意の問いかけにもしっかりと自分の目を見てハッキリと答えた息子の表情を見て、里佳ママはウフ、と笑って、
「ね?子どもたちもこんなにやる気になってるんです。あたしもダンナには後からこのコト伝えるとして、やらせてあげたらどうかな?コレもヴァネッサ先生の教育プロジェクトの一環ですよ」
ねえ?と話を振られて多少慌てながらも「そ、そうですそうです!子ども達の情操教育に、役に立つと思いまして・・・」と返したヴァネッサの姿も手伝って詩織はフゥと短く息を吐いた。そして、悠奈の正面に立って、両手で彼女のほっぺを優しく包み込む。
「ま・・・ママ?」
「ママに相談しないでそんなコトしようだなんて決めちゃって・・・」
「ご・・・ゴメンなさい・・・」
「クスっ・・・いいのよ。ママ、正直嬉しかった。悠奈ちゃんがそのグローリーグラウンドで働いてる皆さんを助けたいって言った時、やさしいコになってくれたのね」
そう言ってやわらかくぎゅっと愛し娘をハグする詩織。母親の覚悟も決まった。
「ヴァネッサ先生、それに近藤先生、神楽さん。子ども達のコト、ヨロシクお願いします」
「おっと、ユウナちゃんのお母さん、詩織さんだっけ?そいつぁ冷たいぜ。ソイツらだけじゃねえぜ。なぁ?陽生」
「ハイ!オレたちだってなんでも協力しますから!安心してください」
京と陽生のその心強い言葉と笑顔は、愛娘が心配で堪らなかった詩織を安堵させるまさに決め手となった。
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「ちょっとサキ!ドコいくのよォ!?」
聖星町郊外にある、ダークチルドレンズのアジト。
その廊下内にて、ダークチルドレンズの一人、桃色のショートヘアが特徴の少女、ジュナの声が響き渡る。
彼女の視線の先には足早で廊下を歩くリーダーのサキの姿があった。
「決まってるでしょ?ヤツラ、セイバーチルドレンズはこのライドランドに帰って来てる・・・ジュエルモンスターを召喚して、コッチでヤツラを叩き潰してやるのよ!」
「コッチでって・・・ついさっきフォースクリスタル・デュエルで戦ったばかりでしょぉ!?魔力だって持たないだろうし・・・いくらなんだってムチャよぉっ!」
「だからこそよ。ヤツラだってまさか今襲ってくるとは思ってないでしょ?不意をついて、消耗している今なら今度こそ・・・っ」
「ソレはさっき戦ったアンタだって同じじゃ・・・大体アンタ負けたばっかりじゃないのよっ!」
そんなジュナの言葉に、サキは思わず彼女の方を振り返って睨み付ける。
満面に悔しさが滲んだ顔、目だけが爛々と光り、ジュナもたじろぐ。
「あんなの・・・あんなのあたしの実力じゃないっ!場外敗けなんて・・・っていうか、アンタらだってナニよ!?さっき負けたっていうのに焦らないワケ?このジョーキョーで!アミはさっきのコトでびえびえ泣いて部屋からでてこないし、そのアミを面倒みるからとかなんとか言ってアカネはアミの部屋でずぅ〜っとゲームしてるし、ミウは部屋でエステがどうとかいって下級モンスター勝手に呼び出してマッサージさせて、リッキはそれにコキ使われてるし・・ミリアはネットでずぅ〜っとアニメ、ナギサもおんなじ部屋でネットショッピング、ナオは自主トレとか言って勝手にランニングに行っちゃうし、チアキのヤツなんか[くだらねぇ。]って一言ボヤいて勝手に外に遊びに行っちゃって・・・アンタのそのノーテンキなアタマの方がくっだらないわよバーッカ!」
「わ・・わかったから落ち着きなって・・・荒れるのはわかるケド、荒れたって勝てるワケじゃないんだから・・・」
「いいわよ。もう使えないアンタたちなんかに頼らない。あたし一人でもヤツラを倒してみせる」
と、心配するジュナを振り払ってサキは広間に出るなり「コズン!」と屋敷の執事を荒々しく呼びつける。
「コズン。ジュエルモンスター用意して」
「サキさま。如何なされました?今日は先程お帰りになられたばかりでは?お部屋でお休みになっては?お体に触りますよ」
「うるっさいわね!大きなお世話よっ!アンタはあたしの言う通りにしてればいいの。余計なコト考えんじゃないわよ!」
そう乱暴に吐き捨ててジュエルモンスター用の宝石がストックしてある部屋へと向かうサキ。半ば八つ当たりに近い扱いをされた青白い顔の執事、コズンは顔色一つ変えるでもなく「かしこまりました」と返事を返す。
そんな様子を見て、ジュナは、もう、なんなのよどいつもこいつもっ!と彼女もまた腹立ちまぎれにサキの後を追った。
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「おい、どういうつもりなんだよ?神楽」
「あら?なんのコト?ん〜〜〜vやっぱり満願堂(まんがんどう)のクリームイチゴ大福は格別ねv」
七海のおばあちゃんが出してくれたイチゴ大福を頬張って、その美味しさに夢見心地といったようななんとも幸せそうな笑顔をみせるちづるおねーさんに、京さんの「すっとぼけてんじゃねえよっ!」とやや怒ったような声が響く。
そんな二人のやりとりを、悠奈は唖然として見ていた。
あの後、ママ友連中は奥のお部屋ですっかり安心したのか?雫ママの「あー、なんや緊張したり心配したりでオナカ減ったぁ〜、マミーなんかおやつちょーだい」の一言で、爆笑のうちにすっかり和み。やれやれといった感じで櫻子がお菓子とお茶を用意、ママ友談義に花を咲かせている。
そのおやつは子ども達の分もたっぷり用意していたようで、悠奈たちも襖二つ隔てた別室でご相伴に預かっているのだが、その場でこの京とちづるのやりとりがはじまっていたのだ。
咲良や麗奈、麗のようにおのおのお菓子やガールズトークやスマホゲームに熱中して全く我関せずなメンバーもいたが、その他はこの場の京の言葉に全員固まっていた。
当のちづるはお茶を一口飲んだ後、京を見つめながら
「大きな声を出さないで。この子達がビックリするでしょう?」
と、やや呆れ気味に返す。その言葉に京の顔色がさらに変わる。
この女のまるで自分を思慮の足りない子どものように扱う態度が前々から気に入らなかった。
ちづるはもう一口お茶を飲むと、今度はヴァネッサや悠奈たちの方へと向き直り、口を開いた。
「話は近藤先生と土方社長から大まかに聞きました。正直、すぐには信じられませんでしたが、ナナミやヒナタくんも関わってくるとなれば話は別です。わたしもできる限り協力させていただきます」
「じゃあやっぱり、神楽さんに連絡してくれたのは、近藤先生?」
「ってこたぁ、さっきのハナシに合わせたのは全部事情を聞いた上でのコトだったんだな?」
「ええ、最初は半信半疑だったけど、お世話になってる土方社長や近藤先生の話でもあったし、それにそちらのイリーナさんを目にして、本当のコトなんだと確信しました」
と、ヴァネッサの傍らに座っているイリーナもニコニコと柔和な笑みを返している。
「うふっそれに、そちらのカワイイフェアリーちゃんたちも実際この目にしてみると、俄然興味が湧いてきちゃいましたよ」
「ホントぉ!?うわ〜嬉しいなv」
「めずらしいぜぇ、オレたちのコトが見えて、まったく驚かなかったライドランドの住人って」
と、先程イリーナの魔法でフェアリーが見えるようになったちづるは、さらに確信を深めたようで、すでにフェアリーの連中とも楽しく歓談している。
このおねーさんもヤバイ対応力だ。
悠奈がそう思っていると、ここでちづるは真顔になり、今度は京を見て口を開いた。
「最初はわたしも驚いたけど、京、アナタやヒナタくんだけじゃなく、ナナミが関わっていると聞いて放っておけなくなったわ」
「それにしてもよぉ、お前までこんな魔法だとかなんとかワケのわからねえ世界の話に興味もつたぁな。現実主義じゃなかったのか?」
「あら?わたしたちが以前戦っていたあの力の存在だって、一般の人からしてみたら到底信じられないお伽噺のような世界よ?魔法の異世界があったって不思議じゃないわ」
「そりゃまぁ・・・そうだが・・・」
「それに・・・」
ちづるは一息入れるように茶を一口すすると、さらに語りだす。
「ヒナタくんも、うちのナナミも関わっているとなると、これが単なる偶然なのか?それとも?と思ってしまうの。京、アナタもだからこそ万が一のためにと思って力を貸すことに決めたんじゃないの?」
その言葉に京の顔が一瞬強ばる。
その今まで陽気な京にーちゃんが自分達に決して見せたことがなかった引きつった顔色に、日向は、そしてまだ知り合って日は浅いが、悠奈もその雰囲気を感じ取ったようだ。
「・・・・んなこたぁねえよ。アレは消滅したハズだろ?オレと、お前と、八神のヤローで倒したんじゃねえか」
「ええ。ですが、オロチは言わば地球意思。人々の精神力の安定度や心の持ちようでいつどんなカタチでまた復活するかわかりません。払う者として決して油断しないよう・・・」
「わぁってる。でもまぁ、今回のこの話には関係ねえよ。オレもその異世界とやらに行ったが、幸か不幸か気配すら感じなかったからな」
「あら、それならなおのコトいいじゃない。それになにより、ナナミの新しいお友達にこうやってお会いできたんだから」
と、今までなんかワケの分からないお話をしていたそのちづるおねーさんが悠奈に再び近づいて両手を握ってきた。
「ユウナちゃん。これからヨロシクおねがいしますね。いつもナナミと仲良くしてくれてありがとう♪ナナミも仲良しな新しいお友達ができてホントに喜んでるのよこれからもずっと仲良しでいてあげてね」
「い・・・いえ、そんな・・・あたしのほうこそ・・・」
「あー、せやで。ウチが仲良くしてあげてんの。ちづるねーちゃん勝手なコト言わんといて。転校してきて無愛想で怖がられたり避けられたりしとったコイツをウチがあったか〜いココロで慰めたってん。別にウチが感謝せんでもええねんもん」
と、傍らで七海がうつ伏せで畳の上に寝っ転がりながら、イチゴ大福をパクついてそんなコトを言った。
いつもの憎まれ口。
ムッとして反論しようとした悠奈だがそれより先にちづるおねーさんの声が飛んだ。
「ナナミ、なんですかその口の利き方は?失礼でしょ?それになぁに?その態度、食べ物を食べる時はちゃんと座って食べなさい。女の子がみっともないでしょ?」
「ええやんか別に、そんなんウチの勝手やし。ウルサイコト言わんといて」
「へぇ〜・・なぁに?随分と反抗的じゃない。そぉ〜、誰に向かってそんなコト言ってるのかしらねぇ?」
「ちっ・・ち、ちょっと待って!いきなりそんなコワイ顔すんのんナシやでっ!ってか、ムリっムリやのっ!今、座られへんのっ!座ったらアカンねんっ!ウチのケンコー上よろしくないねんっ!」
と、ちづるの顔が若干暗くなって笑顔が今までと違うどことなく黒い雰囲気を湛えた笑顔に変わり口調が低くなった途端、七海はうって変わって慌てふためき、必死にそんな言い訳をする。そのナナミに対してちづるは「何ワケのわかんないコト言ってんのよこのコは?」と言うが、そのちづるに対して、横からヤオランが説明した。
「そ、そう!ちづるさん、今、今ね、ナナミすわっちゃダメなんだっ!さっきナナミママにお尻ぺんぺんされたばっかりだから、痛くて座れないんだよ、今はなるべく座らないようにしてダメージ抜かないと、明日学校で死んじゃうよっ!」
「っだあぁーーーーっ!?ワレぁナニ、チクリ入れとんじゃアホぉっ!余計なコトべらべらしゃべっとんちゃうぞナメとんのかヴぉケぇ〜〜〜っっ!」
と、ヤオランに突然そんなネタばらしをされて、思わずブチギレる七海。
だが、その言葉を聞いて、さらにちづるの顔に暗い影が宿ったのを悠奈は感じ取った。
(え?こ・・このおねーさんひょっとして・・・?)
「どういうコト?ナナミ?今の話。なんでアナタ雫さんに、ママに叱られたワケ?」
「い、いや・・・あの・・・そのっ・・ソレはちがう・・くって・・・」
「っ・・はぁ〜・・・ヴァネッサさん、よければその顛末、聞かせてもらえますか?」
と今度はちづるがヴァネッサに向き直ってそう言う。
ヴァネッサは「え?え・・・?」といきなり聞かれて言葉につまりながら周囲をキョロキョロと見回す。
「わたしなの?」と周りの人間に無言のうちに問いかけるが、勇蔵も京も、冷や汗混じりに顔を背けている。七海の方を見て見ると、彼女はもう真っ青になって半泣きで「おねがいっ!言わんといてセンセーっ!」というような必死の形相でブンブンっ!と首を横に振っている。
しかし何よりちづるの有無を言わせぬ迫力に圧倒されて、とうとうパーシーに七海が仕掛けた悪ノリイタズラの顛末を語ってしまった。
ただひたすらに、心の中で「ナナちゃん・・・ゴメンね。先生をゆるして・・・」と詫びながら。
「そんなコトしたの・・・まぁったくぅ・・・何考えてるのアナタってコはっ!?悪ふざけにも限度ってモノがあるでしょっ!?」
凛としながらも鋭い言葉で発せられた神楽ちづるの大喝に、七海は「ひぃっ!」と漏らして縮み上がると、そのまま悠奈の後ろに隠れてガタガタと震え出した。
ちづるは目線をパーシーの方へ向けるとそのまま正面を向いてパーシーに深々と頭を下げた。
「パーシーさん、申し訳ございません。わたしの身内のコが大層な無礼な行為を・・・お許しください」
「ああ・・・いやいやいいんですよ!彼女・・・ナナミさんでしたか?私の記憶が戻るかどうかと考えてくれてやってくれたわけですし・・・まぁなんですか?あのショックで戻ったらそれはそれで今までの苦労はなんだったんだろう?と困ってしまうかもしれませんが・・・あ、いや、今となってはどんなカタチであれ、記憶が戻るのは大歓迎なんですけどね。ぐっはっはっは!こりゃまいった、私としたことがっ!」
と、自分の身の上を嘆いているのかどうか疑わしくなるようなバカ笑いをするパーシーに多少とまどいながらも愛想笑いを返して、ちづるは再び厳しい目で七海を睨み付ける。
「ホントにバカみたいなイタズラして・・・挙句の果てにヤオランくんにあんなヒドイコト言って、しかもなんですかさっきの口調は!?女の子なのにはしたないったらありゃしないっ!アナタみたいなコは口で言ってもわからないのね?それなら・・・」
「い〜〜〜〜やぁ〜〜〜やぁぁ〜〜〜〜〜っっっ!!もぉっイヤぁぁ〜〜〜っっだって、だってだってだってだって・・・さっきママにぶたれたばっかやのにぃ〜〜っっ」
そう泣き叫んでヴァネッサを盾にして彼女の背後に隠れる七海。
悠奈はその様子を見て、「ああ・・・ナナミってママだけじゃなくってこのおねーさんにもオシリ叩かれたりするんだ・・」と彼女の身の上を哀れに思った。
「ま、まあまあ、ちづるさん。ナナちゃんもちゃんと反省してますし・・・その、罰ももう受けましたし、パーシーさんもこう言ってますし・・・ねえ?近藤先生」
「う、うむ。今回は大目に見てあげてはどうかな?な?ナナミくんももう二度としないよな?」
という近藤先生の言葉に半べそながら全力で首がもげんばかりの勢いでうなづく七海。そんな彼女を見てちづるは「フゥ・・・」と短く息を吐いて・・・
「まったく・・・おイタが過ぎるのアンタってコは。いい加減になさい。いいこと?今度やったら、お姉ちゃんのお膝の上でたぁ〜っぷりと叱ってあげますからね?」
と、それだけ言って七海のおでこを指先で軽くつついた。
さっきママにあれだけ叩かれたのにまた今度はちづるねーちゃんにもお尻ぺんぺんされちゃうの!?と本気で怯えていた七海は自分が助かったと知ると、そのまま腰が砕けたのか、ヘナヘナ〜、とその場にヘタリ込んだ。
「な、ナナミっ!だ・・大丈夫?」
「あ・・は・・アハハ・・た、たすかった・・・マジに死んだ思った・・・ウチ・・・」
と、悠奈に肩をゆすられてもほぼ放心状態の七海。窈狼も、先程の自分の失言を気にしてか?七海を気にかけてしきりに謝っていた。
そんな光景を見ていた京が、ちづるにニヤつきながらイヤミたらしく話しかけた。
「あーあー、かえーそ〜に。神楽ぁ〜、オマエあんなにナナミちゃん怖がらせちゃってまぁ・・・んなコトしてっと今に嫌われんぜ?ナナミちゃんによォ」
「あら?わたしは神楽の血を引く家の娘として、恥ずかしくないよう当然の教育をしてるだけよ?ソレに京。ただ甘やかして好き放題に育ててもしナナミがアナタみたいにだらしのない大人になったらそれこそ一族の悲劇だもの」
「ああ?・・っだとコラ、誰がだらしなくって悲劇だこの・・・っ」
「そうだな。それはもっともな言い分だ」
「ナナちゃんが将来、京くんみたいなオトナに・・?嗚呼・・考えただけでおぞましい・・」
「悲劇どころかもはや惨劇だな」
「・・・・オイ、テメエら本人を前にしていくらなんでもあんまりじゃねえか?」
「まぁ、冗談はさておき、女王様・・・でしたっけ?グローリーグラウンドの・・」
「まぁ。ちづるさま。どうかイリーナとお呼びくださいまし。わたくしもアナタのコトをちづるさまとお呼びしたいので・・・」
「・・・では、イリーナさん。ユウナちゃんたちと相対しているそのダークチルドレンズと呼ばれる子ども達・・・聞けばみんな、まだユウナちゃんたちと変わらない年幼い児童と聞きましたけど?」
「ええ、そのようですわ。聞けばレイくんやアキラくんの知り合いのコもいるようで・・・」
「それは私も確認済みです。この子達と同じように生活を見てほしいと依頼を受けたコも居ましたし、陽生くんの知り合いの子たちもいたようです。」
「だとしたら・・・そのエミリーという魔女。子どもの心理をかなり心得ているといえるでしょうね」
「どういうコトですか?」
「ヴァネッサ先生・・・アナタがココにいる子ども達のように家庭教師を依頼された子。どんな背景から依頼が来ました?」
「背景?・・ああ、きっかけですか・・・ええっと・・確かその子は、レイちゃんやヒカルちゃんとも昔からの幼馴染で、1学年下の男の子で・・その子のお父様がさらに一哉さんの学生時代からの仲の良い、後輩の方だったらしく・・・で、ご両親ともココ近年お仕事がお忙しくて、なかなかかまってあげられなかったからか・・・コトあるごとにご両親に反発して、学校でも喧嘩や問題が絶えず、学校にも行ったりいかなかったりで、街をブラブラするようになった・・・と、私も以前から面識のあるコでしたので放って置けず・・・何回かお世話させていただいて、少しは改善が見られたと思ったら、最近、また・・・」
「やはり・・・おそらく程度の違いはあれ、他の子どもたちも似たような環境に置かれていたハズです」
ちづるは呼吸を整えるようにお茶を一口飲むと、さらに続けて話した。
「それぐらいの年頃の子は、自立心と依存心の両方で心がひどくブレる時期だといいます。アレコレ口を出し過ぎると、煩がって耳を塞いだり反発したりしますが・・・逆に放っておかれすぎても、自分は必要のない子なのだと自棄になって親の気を引きたいがために非行に走ることもあります。常に自分の居場所と存在を確立していたいんでしょう。大人に憧れていても、実はまだまだ子ども、そんな年頃なんです。」
「へぇ〜・・・そんなモンかねえ?詳しいんだな神楽」
「一応、大学では児童心理学も取ってたからね」
「んで?それとそのエミリーって魔女が子どもの心理を心得ているとかいうこととどう繋がるんだ?」
「おお、アンタが子どもの事情に通じてるのはわかったけどよぉ。エミリーが子どもの事情に詳しいとかなんとかまでわかるのかい?」
と、京の言葉に続くように今まで沈黙を保っていた紅丸とラモンがちづるに質問を返したが、今度はその彼らの問いに同じく事態を静観してい土方歳武が口を開いた。
「わからんのか?ヴァネッサさんの話からも察するに、ダークチルドレンズのメンバーである子ども達の中には、今まであった自分の居場所、学校、家庭、友達や両親になんらかの不満を抱き、新たな居場所と存在価値を必要としている者が多い可能性が高いというコトだ。なんらかの欲求や不満を抱いている子ども達を言葉巧みに騙し、あたかもエミリー自身がその子たちを必要としている。あるいは居場所を与えてくれる。自分の存在を自分として見てくれるという満足感。達成感。そういったものを子ども達の心の中に植え付け、自在に操るというコトは、子どもの心理を知っていなければできない芸当だろう。なかなかの心の盗人のようだな」
「・・・・ま、まあ、なんだ。細けえコトぁよくわからねえが・・・用はアレだろ?そのガキどもが襲ってきたらヒナやユウナちゃんたちが返り討ちにしてやりゃあイイと。んで、オレ達はそのサポートを責任もってすると!そういうこったな!」
と、土方歳武の肩を親し気に叩きながらそんなコトを言う京に、「今の説明でわからねえのかバカが」というような視線を、紅丸とラモンが冷ややかに送った。
「ハァ・・・やれやれお前というヤツは・・・しかしイリーナさん。そのダークチルドレンズがいつまた襲って来るやもしれん時に、コチラ側はただ手をこまねいて待っていることしかできないのですかな?」
「はぁ・・・と、おっしゃいますと?」
「攻撃は最大の防御とも言う、その魔法の何たるかは私もまだよくわからんが、ただ迎撃するだけではなく、居所を突き止めてコチラから攻め込む、というようなコトはできないかな?」
「ああ、そういうコトですの。ごもっともなご意見ですわ。ですが土方様。残念なことに、エミリーは彼ら、ダークチルドレンズのアジトに魔力を隠す特殊なインビジブルロジックをかけたらしく、コチラからその魔力を傍受することが難しいのです。もちろん、目下、王国を上げて全力で探ってはいるのですが・・・」
「なるほどな・・・一筋縄ではいかんというコトだな。なかなかに手強い、やはり相応の相手と見るべきか・・・」
そう腕を組んで真剣な面持ちで考え込む土方歳武。
それを見て草薙京は、「へぇ・・・」と誰にも聞こえないような小声で感嘆の声を漏らしていた。
日向と親類身内である自分はともかく、まったくの赤の他人であるはずの歳武や勇蔵がココまで日向や悠奈のコトを親身になって考えてくれる。
久しくこれ程の無私の子どもへの愛や男気といったものを見ていなかった気がする。
この人達は心から信頼していい。
そう思った京は歳武の前へと進み出て、その肩をガシっと掴んで言った。
「ありがとよ社長。アンタ言ったら赤の他人だってのに、ウチのガキのためにソコまで親身になってくれてよ。でもオレだってヒナやユウナちゃんのコトちゃんと考えてることだしよ。なんかあったらオレが中心になって力貸すよ。幸か不幸か、アンタ神楽もつれてきてくれたしな。なぁ?オメエだってそのつもりなんだろ?」
「ウフ。心外ね。アナタよりは真剣なつもりだったケド、面倒臭いことはキライじゃなかったの?京」
憎まれ口を叩きながらも顔を見合わせて笑う2人。
決して馴れ合いこそしないものの、紅丸や大門五郎と同じ、そこには死線を潜り抜けて来た戦友同士という確かな信頼関係が見えた。
(あの土方ってセンセーだけじゃなくって、ナナミのお姉さんも、ヒナタくんのお兄さんも、たよりになるじゃん)
悠奈が思わず見せた笑顔の意味を知ってか知らずか、そんな彼女の表情を見て、日向も満足そうな笑みを浮かべていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ねぇ?サキ。ホントにアタシたちだけでやるつもり?」
「なによ?ココまで来てビビってんの?イヤならイイわよ。あたしひとりでやるから」
「そんなコト言ってないじゃないっ!っもぅ!人がせっかく心配してついてきてるってのに・・・」
「誰も頼んでないし。アンタが勝手についてきただけだし」
そんなサキの答えに少しでも仲間意識を感じて心配して付いてきてやった自分の行動をジュナは心底後悔した。
聖星町の神楽神社の東に位置する児童公園の「聖星(せいじょう)きらめきふぁみりーパーク」、子ども達の遊ぶ笑い声が飛び交い、ママ友たちが世間話に花を咲かせ、中高生のカップルが中良さそうにデートを楽しむ、地元のちょっとした隠れ名所のこの公園が今回のターゲットだ。
周囲には池もあり、植林や花畑、遊具なども豊富で、小さいながらも人気の屋台やカフェテリアも立ち並ぶ。
人の心に闇を植え付けるにはうってつけの場所だ。
ダークチルドレンズの2人、サキとジュナは他のメンバーには内緒で、悠奈たちセイバーチルドレンズをやっつけてやろうと新たなジュエルモンスター用のダークジュエルを持ってこの場へ降り立った。
サキはデニムのハーフパンツのポケットから真紅のダークジュエルを取り出す。
不意に背後にいたジュナを一瞥する。
「・・・なによ?」
「別に・・・はじめるわよ?」
「なんなのよもぅ、イミわかんないんだけど・・・」という捨て台詞が聞こえる。
先程まで自分が悪態をついていたのだから当たり前の反応。それゆえチームワークがいいわけではないが、少なくともジュナやナオ、ミリアといった面々はまだ他のメンバーよりはダークチルドレンズの任務を意識的にしっかりと捉えているコトはサキにもよくわかっていた。
特にジュナは自分と同じく、エミリーを尊敬している。無駄な私利私欲もコレといって感じない。
そういった意味ではメンバーの中でサキがまだ信頼できるのは彼女なのだ。戦力は多いに越したことはない。
紅い宝石を一度両手で包み込むと、ソレを宙に掲げて両手を前方に翳し、呪文を唱える。
「闇より出でし邪なる石、我が闇の魔力に応え、その力を目覚めさせよっ!」
その声に呼応するかのように発生した例のドス黒い紫の煙。
一瞬で紅い宝石を飲み込むと空中を疾駆。
狙われたのは花畑の中、花の蜜をせっせと集める小さな小さなミツバチ。
蜂に宝石が衝突した次の瞬間、辺りを包む紫色の煙と眩い紫光。
次の瞬間、光の中から姿を現したのは3メートルを超える巨体を有する、体中に禍々しい棘を纏い、鋭い巨剣のような針を両の前足と臀部に備えた蜂の怪物だった。
「ギギュィーーーーッスッ!」
「うっ・・・うわぁぁ〜〜〜〜っっなっなんだぁあのバケモノはぁ!?」
「キャアァーーーーッッ!イヤァ〜〜〜ッッ」
「助けてぇ〜〜っっ」
「ウフフフ・・・さあ!存分に暴れてライドランド人たちの心に闇を植え付けてやりなさいっ!ジュエルモンスター、ポイゾニックワスプード!」
サキの声に呼応するかのように、雄叫びを上げる蜂のモンスター。
雄叫びに続いて小さな闇のゲートが周囲にいくつも出現し、中から二回りほど小さい同じような蜂のようなモンスターと蛾によく似たモンスターが出現した。
あっという間に平和な昼下がりの公園が地獄絵図と化す。
子どもたちを含む人々の阿鼻叫喚が響き、バケモノとサキの高笑いがコンチェルトとなって虚空に吸い込まれていった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「!!」
(・・・・この感じ・・・もしかして!?)
その感覚を感じ取ることが出来たのは曲がりなりにも今までセイバーチルドレンズの一人として魔法を駆使した戦いの中に身を投じてきたからだったのだろうか?
愛澤悠奈は自身の心身に感じた確かな魔力の震えに咄嗟的に座敷を飛び出し、境内の庭に出て虚空を見上げた。
その悠奈の様子にレイアと日向が駆け寄る。
「ユウナちゃん!」
「レイア!この感じ・・・だよね?」
「さっすがねユウナちゃん!ジュエルモンスターだよ」
「うん!オレも感じた。行こうユウナ!ねえみんな!」
日向のその号令にメンバーの子ども達、そしてフェアリーたちが「うん!」や「おおっ!」「はぁ〜いっ!」といった思い思いの返事で元気よく応える。
そしてそのまま座敷からドタドタと走って現場に急行した。ただ一人、東麗だけは「はぁ〜・・・ダリぃ・・・」と欠伸混じりに呟いてのそのそと歩いて行ったが。
そして呆気に取られているのは例によって大人達である。
『・・・・・・・・・。』
「・・・えっと・・・イリーナ・・さん?コレ・・ですか?」
「ええ。どうやらコチラの世界にジュエルモンスターとダークチルドレンズが現れたようですね。まあ!こうしてはいられないわ。すぐに私たちもむかいましょう」
「・・・わかりました。京!聞いていたわね?急ぐわよ!」
「ああ!?お、オイオイ待てよ神楽!まさか、オマエもう対応できてんのか?」
「アレだけ説明を受けたのよ?理解できない方がおかしいわ。戦いには参加できなくてもなにかサポートできるコトがあるかもしれない・・・ソレに、あのコたちがどんな戦いをするのか、観てみたいですしね。ホラ、ヴァネッサ先生!陽生くん、みんなも行きましょう!」
呆気に取られていたのはほんの数瞬だった。
その中で神楽ちづるは一早く目の前で起きている事態を察知し、今だジュエルモンスターやダークチルドレン、グローリーグラウンドの出来事に未体験であるにもかかわらず、周りの大人メンバー達を叱咤し、子ども達の後を追いかけて行った。
この適応力と判断力はどこからくるのだろうか?ちづるの行動に近藤勇蔵をして舌を巻いた。
ちづるのその行動に、流石の京も我に返って慌ててその後を追い駆ける。
グローリーグラウンドのコトにおいては、自分やこの場にいるメンバー達は少なくともその世界を実際に見ているのだから、ただ今話を聞いただけのちづるに遅れをとるようなことがあっては彼のプライドとしては納得ならなかった。
「おいっ!ちょっ、ちょっと待て神楽っ!」と走り出した京に、陽生、ヴァネッサ、続いてその他の大人連中もドタドタと慌ただしくその場を後にし、後に残ったのは、お茶会に華を咲かせていたママ友連中のみとなった。
「?急にみんなどうしたのかしら?ねえ?雫さん」
「知らんわ。なんや急用でもできたんちゃうの?あ!それより、この前駅裏にオープンしたパンケーキ屋さんがなぁ、えっらいオシャレでぇ〜、しかも値段も・・・・」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「!・・・ユウナ!公園で遊んでたみんながっ!」
「・・・ひどい。どうして?こんなコトするんだろう?」
現場に駆けつけてみると、やっぱりとは思ったものの場の惨状に悠奈は愕然として唇を噛んだ。
ソコには、既にジュエルモンスターの魔力によって心と精神の中に闇のエネルギーを植え付けられ、苦しそうな表情で、公園で楽しい一時を過ごしていた人たちが横たわっていた。
中には意識が無いながらも、「悲しい・・・」「辛い・・・」とうわごとのように呻いているそんな人もいる。
悠奈が怒りを湛えた眼で空を睨み付ける。
そこには住民の憩いの花壇で暴れ回る巨大な蜂のバケモノと、周囲を飛び回るそのバケモノよりももっと小さな蜂のモンスターと体に棘を生やした芋虫のようなモンスター。
そして傍らにはダークチルドレンズのサキとジュナの姿があった。
「やめてよっ!性懲りもなくこんなヒドイコトっ!毎回毎回こんなコトばっかりして・・・他にやるコトないの?バカじゃん!」
「来たわね愛澤悠奈・・・相変わらずチョ〜・・ナマイキっ!アンタにバカなんて言われたくないわよっ!」
「ヒトのメーワクも考えられないようなヤツなんてバカでじゅーぶんじゃんっ!毎回こんなヒドイコトして、みんなを悲しませて眠らせてモンスターと一緒に暴れて・・・アンタみたいなのがバカじゃなかったらダレがバカだっての!?バカバカバーーっカっ!」
「っっっキイィ〜〜〜〜〜〜っっっ!なによ、なによなによなによなによォ〜〜〜メッチャナマイキっ!ムッカつくぅ〜〜〜っっ!あっ!ヒトにバカって言ったら言ったほうがバカなんじゃないのよバァ〜〜〜っカ!」
「あ!アンタもほぉら、バカなんじゃん、ぶぅわぁ〜〜〜〜っかっ!」
「ちょっ・・・ちょちょちょっと・・・サキぃ〜・・・・っ」
「もぅっ!ユウナちゃんっ!」
「ユウナっ!おちついてっ!」
と、顔を合わせるなりイキナリ喧々囂々(けんけんごうごう)と口撃のし合いを始めた悠奈とサキをそれぞれ、ジュナ、日向、レイアがとりなす。
顔を紅潮させて睨みあう両者の様子は、憎み合う宿敵・・・というよりは何かケンカ友達のような様子に見えなくもなかったが、ともあれ、今この場でそんなやりとりを気にする者はいなかった。
セイバーチルドレンズの面々に強く印象づくのはやはり目の前で暴れている巨大な蜂のバケモノと周囲を飛び回る虫型モンスターの姿だろう。
悠奈も取りあえずは自分を抑えて冷静さを幾分取り戻すと、背後に駆け寄ってきたメンバー達に向かって言った。
「みんな!行くよっ!」
「おっけーっ!」
「うんっ!」
「よっしゃ。いっちょやろか!」
「がんばっちゃお〜♪」
「ったく・・・めんどくせぇな」
悠奈の掛け声に、毎度のことながらそれぞれに反応は違えど、変身アイテムを掲げながら応じるセイバーチルドレンズのメンバー達、あの傲慢不遜な麗ですらがさながら悠奈をリーダーであると認めているかのような応じ方だった。
『シャイニングスパーク・トランスフォーム!』
「!・・・なっ・・なに!?あの光は!?」
セイバーチルドレンのメンバー全員が声を合わせて眩い光に包まれる。
遠目からでもハッキリ認識できるその光。
それを確認して初めに目を見張ったのは、七海と日向の気を目指して現場に駆けつけてきた神楽ちづるだった。
その光の中から、さらに驚くべき光景が現れる。
常人の眼には確認できなかったろうが、一流の武術家でもある神楽ちづるの視力と動体視力は子ども達が光の中で変身して、武具や衣装のようなものを纏っていく姿がわかったのだ。
「輝く一筋の希望の光・・セイバーチルドレン・マジカルウィッチ!」
「情熱迸る勇気の炎・・セイバーチルドレン・ブレイブファイター!」
「大いなる青き海の力・・セイバーチルドレン・ケアヒーラー!」
「闇夜を照らす輝きの月・・セイバーチルドレン・シャインモンク!」
「拳の闘気は雷神の魂・・セイバーチルドレン・ソウルグラップラー!」
「根性全開、爆裂!男気一直線・・セイバーチルドレン・ガッツストライカー!」
「大地の恵みは緑の息吹き・・セイバーチルドレン・ミスティメイジ!」
「地を行き巡るは勝負の理・・セイバーチルドレン・グリットギャンブラー!」
「邪悪な心を打ち消す聖なる唄声・・セイバーチルドレン・スターディーヴァ!」
「天を翔る疾風の妙技・・セイバーチルドレン・ゲイルシーフ!」
「聖なる星々の導き手、セイバーチルドレンズ!ただいま参上!・・・って、アタシなに言っちゃってんの!?きゃぁ〜〜っヤダっ!ハズイっ!フツーに赤っ恥じゃんっ!」
「ええ!?ユウナ考えてたんじゃないの?今のセリフ・・・」
「聖なるホシボシのミチビキテ・・って、エライだっさいキャッチフレーズやなぁ〜・・・」
「自然に頭の中に浮かんできちゃったとか?」
「・・・なんて光景なの?さっき話に聞いたばかりだけど・・・アレが?」
「ああ、アレが、魔法を操れる、ユウナちゃんやヒナ、ナナちゃんたちがヘンシンした姿なんだと」
ふと傍らから聞こえた声に反応する。
ちづるの横には自分に今追いついたのだろうか?
草薙京が目線を同じ悠奈たちの方へと向けてちづるに説明した。
今しがたイリーナや悠奈、日向たち本人から話を聞いていたので、ちづるもある程度の予想を立てはいたのだが、実際に目にすると、魔法の力を使ったヘンシンというものが大層現実離れしている信じがたい光景であることを否が応でも思い知らされた。
もっともそれは自分達が長年の因縁やKOFなどを通して戦ってきたオロチ一族の存在も一般的視点から見れば相当に浮世離れしているのであるから、こういった世界があっても不思議ではないのだが・・・。
闘気、オロチ、超能力、そして今目の前に広がっている魔法というチカラ。
空想やお伽噺の中に伝えられてきた現実的とは言えない現象。
科学論者や現実主義者と呼ばれる人物達ならばまず真っ向から否定し、手品やトリックだと主張する光景。しかしそれが現実世界の中に純然たる事実として繰り広げられているのだ。
世界と言うものは本当に広い。
神楽ちづるをしてあらためてそのコトを実感していた。
不意に勇蔵や歳武、陽生、といった面々も次々に場へ到着する。
彼等が見ている間に、正に今、悠奈たちセイバーチルドレンズと未知のモンスターとの戦いの舞台が切って落とされた。
「いけぇっ!やっちゃいな。ジャイアントビー!ヒュージモス!」
「ビビィ〜〜〜ッッ」「キュロロロロロ〜〜〜ッ」
「そうはさせるかっ!ハイヤァっ!」
サキがけしかけてきた小型モンスターをまず、先陣切って迎え撃つべく飛び出したのは窈狼だった。
不気味な鳴き声と羽音を響かせながらチルドレンズメンバーに襲い掛かってきた蜂と蛾のモンスターを中央から迎撃する。
尻の毒針を剥いて飛び掛かってきた蜂のモンスターの攻撃を躱すことなく、攻撃を僅かに逸らせつつ直接胴体部分に手甲、ウルフクローフィストを装着していない方の拳でカウンターのパンチを叩き込む。
蜂の胴体が大きく歪み、くの字に折れた瞬間に吹き飛び、周囲の蛾と蜂のモンスターが3、4体ほど巻き添えを喰って弾け飛ぶ。
続いて体を大きく捻って、背後の蛾の頭部に遠心力を乗せた回し蹴りを叩き込むと、流れるような動きから正面で面喰っていた蜂を手甲で縦一文字に引き裂いた。
窈狼の特攻から先制攻撃を成功させたセイバーチルドレンズは、勢いを得たのか、日向や光、晃といった攻撃陣が次々とモンスターの撃滅に参戦する。
「ヒカルちゃん!アキちゃん!」
「オッケイだぜヒナぁ!」
「ヤオのヤツ、ナイスな突撃やで。よっしゃ!コッチも勢いよくいったろか!」
剣とグラブをそれぞれ装着して、日向たちもモンスターの渦中に飛び込む。
直接攻撃を行う男子チームを那深や沙良、麗奈といった女子チームが魔法でサポートし、七海と悠奈がそれぞれジュナ、サキと対峙するという連携が早くも成り立つ。
「へっへっへぇ〜、お互い2対2やなぁ〜。でもウチらの方が強いから有利やな。とくにこの頭もイイ、スタイル抜群、超美少女のナナちゃんがいてんねんから。今のうちに降参しといたほうがエエんちゃうん?トシマのオネーさまw」
「年増の使い方もよくわかんないようなおバカのクソガキがナマいってんじゃないっての。自意識過剰もそこまでいったら表彰モンねぇ。一度じっくり自分の身のほどってモンを考えてみたら?アンタらこそ、覚悟しなさい!」
「サキ・・・言っとくケド、アタシ、あんたみたいなヒドイコト、ズルイコト、へーきでやるようなヤツにはゼッタイ負けないからっ!」
「イチイチイチイチ、アンタってばホンっトにナマイキでムカつく!アンタの方こそ、アタシたちに、エミリーさまに歯向かったコトを今日こそ後悔させてやるからっ!」
そう言うと、サキは掌を翳し、「我が手に宿れ、イフリートの怒りよ・・」と素早く呪文の詠唱を唱えると得意のファイアボールを放ってきた。
サキ得意呪文の、火のアトリビューション攻撃魔法のファイアボール。
基本の攻撃魔法ではあるが、練度を上げて魔力を高めて行けば威力、消費魔力ともにハイグレードローコスト、になっていく。ここに魔法の強みの面があるのだ。
魔法の修練と魔力の鍛錬、どちらの修行にも共通して行われる鍛錬法はイマジネーション、つまり想像力と発想力の底上げである。
だからこそ剣士や武道家、弓術士、騎士などとは違って魔法使いという職種を司る人種は体の鍛錬ではなく、常に書物を読み、瞑想黙想を繰り返し、知恵知識、思考力を巡らせることによって魔法力を高めて戦闘力とするのだ。
悠奈もサキも、七海もジュナも、そしてセイバーチルドレンズの女子メンバー達やダークチルドレンズの中の殆どのメンバーたちも、戦闘力の底上げとはこの魔力を如何にして高めるかなのだ。
サキはファイアボールを詠唱無しでも即座に頭の中にイマジネーションを巡らせて魔力を直結させ、撃ち出す術を心得ているが、もちろん詠唱してよりイマジネーション、つまり魔法力を高めた方が威力が増大する。
正に必殺の一撃となったファイアボール。
咄嗟に同じファイアボールを打ち出して相殺しようと考えた悠奈の放った火球とはソコが差となった。
「え!?・・・ウソ・・きゃあぁっ!?」
詠唱したことによってより魔力を練られ、威力を増したファイアボール、悠奈の放ったファイアボールは、サキの放った火球に飲まれ、悠奈はそのまま火球の直撃を受け、身を焦がされる。
「ユウナっ!?」
「へぇ、やるじゃんサキ!ほらほら、ぼぉっとしてるとあぶないわよぉ!」
「へ?なん?って・・きゃわぁっ!?」
火の玉に噛みつかれた悠奈を案じて目をやったその隙をついて、ジュナの弓矢が唸りを上げて七海に襲い掛かる。
体勢を崩しつつも何とか身を躱す七海。
「っっ!!・・・ユウナっ!大丈夫かぁ!?」
「きゃああぅっ!ヤダぁっ!もぉうっ!けほっけほっ・・あっつぅいじゃんっ!ナニすんだよバカぁっっ」
と、炎と白煙の中から癇癪を起したように地団太を踏む悠奈が現れる。
変身して防御力、耐久力などの基礎身体能力が向上し、おなじファイアボールをぶつけたことにより、若干威力が相殺されたとはいえ、火の玉を正面からモロに喰らった悠奈は熱さと煙たさに半泣きになりながらも何とか戦闘態勢を整え直してサキを正面から睨み付けた。
「ア〜ハハハっ!いい気味!攻撃魔法はよりたくさん魔力を練り込んだ方が威力があがるのよ、さて、一気に決めさせてもらうからね。エリザベート!」
自慢気にそう言うと、一気に勝負を付けようと右手首に装着していた小さなレイピアのアクセサリーを、光とともに瞬く間に召喚し、武器として巨大化させると自身の武器として手に携えると、そのまま構えて悠奈に襲い掛かった。
「ユウナちゃん!しっかり!来るよっ!」
「ぅぅう〜〜〜・・・もぉうっ!」
火の粉に焦がされた腕や脚が熱くて痛くて泣きそうになる気持ちを堪えて、悠奈はハートフルロッドをまっすぐに構えて正面からサキの剣を受け止めた。
ガキィンっ!という音が響きそのままジリジリとサキが間合いを詰める。
「どぉしたのよ?泣きそうなカオしちゃって。フフフ・・・そんなに熱かった?だったら降参しちゃいなよ?レイアを渡して二度とアタシ達の邪魔をしないって約束すれば勘弁してあげてもいいのよ?」
「っっ!〜〜〜っダレがっ!?ぜぇったい負けないんだからっ!」
分の悪い展開を強いられている悠奈たちに、那深や沙良も気づいて意識を剥ける。
「オイ、ナミ・・・ヤベエんじゃねえか?アレ。ユウナ、ケガしてねえ?」
「うん・・どうしよ?あっち助けにいこっか?サラちゃん」
「うぅ〜・・・でもでもぉ、まだまだハチさんとガさん、いっぱいいるよ?ソレに・・あのおっきいハチさんも・・」
日向たちをサポートしながら魔法や遠隔武器で闘う那深たち年上女子チームも、悠奈と七海のピンチを見て助けに入ろうかと思うが、モンスターは依然として周囲を囲んでいるし、あの巨大な蜂のジュエルモンスター、ポイゾニックワスプードも咆哮を上げて鋭い針を突いたり、飛ばしたりして日向たち攻撃している。
それを置き去りにしておくのも気が引けた。
その様子に気づいたジュナはココだとばかりにジュエルモンスターに向かって叫んだ。
「いいわよポイゾニックワスプード!もっともっと暴れちゃいなさいっ!」
「ギュギイィーーーッスッッ!」
ジュナのその声に呼応し、巨蜂の化物、ポイゾニックワスプードは空中に飛び上がると、そこから地面の日向達めがけて全身から棘を発射して攻撃した。
「うわぁっ!?」
「っとおっ!?アブネっ!」
「な、なんやねんアイツ!?こんなコトもできんのかい?」
「なかなか厄介だなあのデカバチ・・・どうにかして地上に引き摺り倒さねえと・・・」
「だろーな。ま、とにかくこのデカブツを優先的に処理しなきゃハナシにならねえだろ?」
『!!!』
「!・・あ、アレって!?」
と、その声に日向チームの男子メンバー達と、そして闘いながらもポイゾニックワスプードに指示をしていたジュナの眼が見開かれた。
宙にいるワスプードの背からひょっこりと現れたのは・・・
「きゃあっ!?れ、レイちゃんっ!?あ、あのコったらまたあんな危険なコトを・・・」
遠目からじっと見守っていたヴァネッサが思わず声を上げる。
なんと、今まで戦闘で姿を見せなかった東麗が、空を飛んでいる巨蜂モンスターの背に取りついているではないか。
ともすればいつ振り落とされるかわからないが、当の本人はまるで何も問題ないかのように全身の棘を起用に避けながら、ポイゾニックワスプードの首から頭部の部分に組みついている。
「レイちゃん!?」
「レイ!今までおらん思うたら、オマエそんなトコに!?」
「ナミ!サラ!レナ!こっちのコトぁいいから、とりあえずアイザワとナナのサポートに回れ!アイツらの方にも雑魚モンスターが寄り始めたからとりあえずそっちを頼む。オラアっ!」
麗はそれだけ言うと、ダガーの豹牙刃で蜂の羽根の辺りを斬り付け、さらに後頭部に強烈なチョッピングレフトパンチを叩きつけた。
「ギギイッッ!」
モンスターが呻いてそのまま空中から地面へと叩き落とされる。
東麗は、戦闘が始まった当初から空中を飛び回るこのジュエルモンスターの厄介さを一早く察知し、地上戦へと持ち込むこの機会を伺っていたのだ。
こういった闘いに関するカンと洞察力は流石だろう。
「ヒナ!お前がリーダーなんだ!お前がみんなに指示しろっ!」
「え?あ・・うんっ!ナミちゃん!サラちゃん!レナちゃん!コッチは大丈夫だから、ユウナたちの方をお願いっ!」
「ヒナちゃん・・・オッケイ!」
「りょーかいだぜっ!レナ!あたいたちもいくぜ」
「うん!ちょっとまってね〜。じゃあその前にみんなにエキサイトダンスかけておくから♪ハ〜イ!みんなレナちゃんにちゅぅーもぉーくっ!」
麗の檄に反応した日向の指示で、那深、咲良、麗奈の3人がピンチに陥っている悠奈、七海の方へと向かう。
麗奈だけはエキサイトダンスで男子チームの腕力を底上げして、戦闘支援を行ってからサポートに入る。
能天気なお気楽娘の麗奈がここまで気が回るようになったのも、セイバーチルドレンズとしての自覚の表れだろうか?
何にせよ、2対2の状況下で有利に進めていたサキとジュナのもとへ、現れた援軍。
ジュナはサキに代わって、モンスター達に加勢を指示する。
「ちぃっ・・ジャイアントビーにヒュージモス!何してんのよっ!コイツら片付けてっ!」
ジュナの声に反応して即座に那深たちの方へと迫る。
しかし先程の乱戦で、窈狼や日向たちに駆逐されているのか数が減っている。
那深たちが3人に対し、モンスターの数は6体。
頭数の上で言えば有利は有利だが、那深は複数の攻撃魔法を使いこなすメイジだし、麗奈の飛び道具は空中を飛び回るモンスター達にとっては最悪の武器とも言える。この数ではもしかすると突破されるかも?
自分が加勢に回れば話は別かもしれないが、先程から相手にしているこの七海。
だんだん自分の攻撃に慣れてきたのか?徐々に手強くなってきている。
おまけに見た目以上にすばしっこく、アーチャーのジュナをして中々弓矢の的を絞らせなずに、コルセスカという薙刀状の武器で近距離戦に持ち込んでくる。これでは攻撃魔法も使えない。
ヒーラーというパーティーの回復役でおよそ戦闘タイプのジョブとはいいがたいのだが、天性のモノなのかどうかは知らないが、ひょっとするとこの七海、戦闘に関して言えば悠奈以上のポテンシャルを秘めているのかもしれない。
ジュエルモンスターに頼りたいトコロだが、ワスプードの方はというと男子チームの相手に追われている。
それも徐々に押されてきているのだ。
手持ちのモンスターも確実に減ってきている。このままではジリ貧である。
セイバーチルドレンズは確実にチームとして進歩してきている。
サキはもちろんのコトだが、ジュナとてメンバーの中ではエミリーに対する忠誠心や目的達成における信念は強い。
だからこそ、ジュナここにおいてサキの意地を無視して自分の奥の手を出した。
「どや?ナナちゃんナメたらアカンっちゅうコトがよぉやくわかったか?とっとと参ったしてゴメンなさい言うて謝ればココロのひろぉ〜いナナちゃんのこっちゃ許してあげんでもないでぇ〜?w」
「・・・ハンっ!えっらそうに。ちょっとぐらい抵抗できるようになってきたからってナマ言ってんじゃないわよ?謝んのは・・・アンタらのほうなんだから!」
ジュナが突然バックステップで七海から身を引いて距離をとり、コスチュームの上着の中に手を入れた。
「召喚モンスター!いけぇっ!ジャイアントバット!」
ジュナがバトルコスチュームの内ポケットから召喚用の水晶を取り出してそう叫ぶ。
すると、水晶から漆黒のゲートと蒼紫の発光が広がり、中からあれよあれよと1.2メートルほどの巨大なコウモリ型のモンスターが現れ、あっという間にジュナやサキを守るかのように周囲の空を旋回し始めた。
何体かは日向達の方にも向かう。
この光景に驚いたのは当然悠奈と七海の加勢に入った那深たちである。
「ちっ・・ちょっとぉ〜っ!」
「なんだよっ!?あのモンスター!」
「ふえ〜・・・おっきいトリさん。カラスかな?トンビ?んにゃ?どっちだろ?」
「・・・コウモリだろ?」
「あっそだそだ!コーモリさんだ!さっすがぁ!サラちゃんあったまイイ!」
その数はおよそ15〜20体。
せっかくジャイアントビーとヒュージモスの数を頑張って減らしてきたトコロなのに、ココで新手のモンスターの援軍に一気に疲労が加速する。
それは男子チームも同じだったようで、ジュエルモンスターを相手にしていた手も思わず止まる。
「新しいモンスターが・・・いつの間に・・?」
「あのジュナってヒトが持ってたんだ・・・クソ!あとちょっとだったのに・・・」
「めんどくさいコトしよんなぁ〜ジュナのヤツぅ・・・」
「コッチも弱ってきたとはいってもまだ手ぇ放せないし・・・どうするかな?」
「新しいモンスターが?しかも、アイツら、ヒナタくんの時に襲ってきた・・・」
「ジュナ!?どういうコト?ソイツらは?」
互いに火花を散らして闘っていた悠奈とサキも、モンスターの援軍に反応してジュナの方を振り向いた。
ジュナがサキの方を見ながらハッキリした口調で言った。
「出発する直前にコズンから貰ってきたの。もしもの時のために。召喚玉の中でもLサイズのヤツよ。ジャイアントバットも高レベルの成熟してるヤツら。コレでコッチはなんとかなるでしょ?ポイゾニックワスプードもまだ戦えるし・・・」
「アンタ・・・アタシにだまってかってなコト・・・」
「意地張ってんじゃないわよっ!いつも自分勝手なコトばっかり言ったりやったり・・ダークチルドレンズだってチームなのよ!エミリーさまがつくったチームなの!」
今まで聞いたことの無いジュナの強いセリフにその場の、チルドレンズを含む子ども達全員が静まり返る。
もちろん当のサキ本人も息を呑み、驚いた面持ちでジュナを見つめていた。
そんな彼女にジュナはさらに続けてこう言う。
「リーダーだっていうなら、たまには部下の意見にも耳を傾けてチームワークを良くすることだって大事なコトのハズ。ウチのチームはアカネのヤツも含めて自分勝手なヤツが多いけど、少なくともアタシはエミリーさまのためにがんばりたい。もっとアタシを信頼しな。たまには年上のお姉ちゃんの言うコトも聞きなよ」
「ジュナ・・・」
「コッチはアタシとコイツらでなんとかする・・・アンタは早くアイザワユウナと決着つけちゃいなさい」
そう言った次の瞬間に出されたジュナの合図によって、モンスター達が一斉にチルドレンズに襲い掛かる。
ジュナ自身も弓に矢をつがえて那深や日向たちにも次々に速射。
その姿をなんともいえないような表情で見つめていたサキだったが、再び射るような瞳で悠奈を見据えてエリザベートを構えた。
「ホント・・・どいつもこいつもナマイキ。リーダーはアタシだってのに。このまんまじゃカッコつかないわ。すぐにアンタをやっつけてリーダーの力を見せつけてやんなくっちゃ・・・覚悟しなさいユウナ!」
「そうはいかないよ・・・ヒナタくんたちを、みんなをアタシが助けるんだからっ!」
「・・・京、どうしても手出しをしてはダメなの?」
「なんだとさ」
離れた所でコトの成り行きをただ見守っていた神楽ちづるが、ふと京に口を開いた。
京は京で、腕を組みながらじっと子どもたちの戦いを見つめている。
陽生やヴァネッサ、そして勇蔵や歳武もそうだ。
今度はその場で見ている他の大人たちに向かってちづるが言う。
「スゴイ戦いだわ・・・まだ小学生の子ども達が・・あんな危険そうな生き物を相手に、あんな危険そうな技を操りながら・・・でもまだやっぱり子どもですよ?あのダークチルドレンと言われる2人の女の子たちも。何かあってからじゃ遅い。キケンだわ。やっぱりわたしたちが止めた方が・・・」
「いいえ。それはなりませんわ」
「!」
と、ソコにようやく遅れて登場した彼女が厳しい口調で言葉を放つ。
「イリーナさん!」
「おお?遅かったじゃねえかアンタ。何してたんだ?」
「もうみんなの戦いはじまっちゃってるっスよ?」
「どうもゴメンなさい。ちょうどそちらの入り口で紅丸さまとバッタリお会いしまして」
と、ヴァネッサたちの問いに満点ニコやか笑顔で答えるイリーナの後ろには長い金髪を掻き上げながら得意気に微笑む二階堂紅丸の姿があった。
こんな状況でこんなトコロに・・・と、ヴァネッサだけでなく、京、陽生、そして近藤勇蔵たちの顔も引きつる。
「オイオイ、水臭ぇな。なんでもグローリーグラウンドのピンチだって言うじゃねえか。しかもなんとまぁ女王様御自らこんなむさ苦しい所においでとは・・・京、なんでこの俺様に一言連絡よこさねえんだ?グローリーグラウンドのピンチなら、俺様のピンチも同じじゃねえか。いつでも頼ってくれていいんだぜ?」
「そうなんですの!紅丸さまったら、ソコまでグローリーグラウンドのコトを想ってくださってらして・・・わたしくし感激いたしましたの。それで、なんでもコチラの世界に来た時の通信用にと、スマートフォンというものを先程いただきまして・・・連絡先と言うものをつくったり、わざわざコチラの世界の通信会社の方に急遽出張していただいてアドレスやデンワバンゴウなどというモノを登録していたりしておりましたら・・・時間がかかってしましましたv申し訳ありません。紅丸さま、わざわざホントにありがとうございます♪」
「なぁに言ってんだいイリーナちゃぁ〜んvキミのような美しいレイディとお近づきになれるならどんなモンでも利用して・・・じゃなかった、グローリーグラウンドを救うためならどんな試練でも、例え火の中水の中魔法の中でもいつでもどこでもこの二階堂紅丸、よろこんでとんでくるぜハニぃ〜〜〜vvvv♪」
と、そんなやりとりを聞いて、何があったかと思ったらそういうトラブルにイリーナが巻き込まれていたのか。と、その場一同ゲンナリした。
と、神楽ちづるだけはその話を聞いてか聞かずか、イリーナの方へと向き直り、至って真面目な口調でこう続けた。
「イリーナさん、どういうコトですか?命の危険になっても、まだわたしたちは手出しをしてはならないというコトですか?まだ、然るべき時がある・・と?」
イリーナの眼の前に進み出てこう尋ねたちづる。
その姿に、「おぉ?なんだ神楽じゃねえか。どうしたこんなトコで?」と言ってきた紅丸を「ごきげんよう、二階堂くん。おひさしぶりね」とたったの二言で躱して、
「本当に子どもたちの危機となる時では、まだないと?」
「その通りですわ。ちづるさま。あのコたちの安全を考える気持ちはもちろんわたくしもかわりません。わたくし達の世界のために必死に頑張ってくれているんですもの。ですがグローリーグラウンドの失われた魔力を回復させるためには、エミリーに奪われた魔力自体を取り戻さねばなりません。そのためには、12のエートピースに閉じ込められた魔力を開放し、エミリーの魔力によって組織されたダークチルドレンズたちとの戦いに勝利すること、さらには新たに仕掛けられたフォースクリスタルデュエルという戦いにも打ち勝たなければなりません。それはあの子ども達自身の力でなければならないのです。グローリーグラウンドの聖なる光の魔力によって生み出されたセイバーチルドレンズと、邪悪な闇の魔力によって生み出されたダークチルドレンズ。お互いがグローリーグラウンドの魔法によって生まれたモノならば相反する力関係によって、調和を図る。それしか方法がないのです」
「・・・つまり?わたし達が不用意に手出しをすれば、調和が乱れて、グローリーグラウンドのその失われた魔力は回復できなくなる・・・そういうコトですか?」
ちづるの的を射た問いに、イリーナは真剣な表情で静かに頷いた。その様子にちづるも諦めたように短く息を吐く。
あの子たち自身が決めたコトだから仕方ないのだろうか?
しかし、そんなちづるの表情を見て取ったか?今度はイリーナは笑顔でちづるにこう言った。
「ですがちづるさま。わたくしもグローリーグラウンドの女王です。己が国の大事はもちろん考えておりますが、だからと言ってユウナちゃんたちを我が世界の犠牲にしようなどとは思っていません。もし、彼女達の身に本当に危機が及んだ、その時には・・・グローリーグラウンドの回復を断念致します」
「!」
「ですからもしもの時はご安心ください。あなた方ライドランド・・この世界の人々にそこまでの無理強いはいたしませんわ。それに、わたくしにはわかるんです」
イリーナはもう一言そう言って、戦っている悠奈たちの方へと目を向けた。
「あのコたちなら、きっと大丈夫だと・・・」
「・・・・」
「そう深刻に考えるなよ。な?神楽」
「・・・京?」
今度は傍で聞いていた草薙京が決意に満ちた表情でちづるに言葉をかける。
「俺だって、陽生だって・・・この場にいるヤツらはみんな、いざとなりゃアイツらのために他はもちろん、命張って守るつもりなんだ。お前1人に背負い込ませやしねえよ」
「・・・フフっ・・イヤに自信満々なのですね」
「なぁんだよ?信用できねえか?それによ。アイツらは俺達が思ってるよりよっぽど逞しいかもしれねえぜ?見ろよ。そろそろ戦局が変わって来るぜ?」
そう京が自信ありげに言って悠奈たちの方を顎で指すと、彼の言った通り展開が動き始めていた。
「でやあーーーっ!」
「アチョォーゥッ!」
巨蜂のジュエルモンスター、ポイゾニックワスプードが飛び立とうとしたその前に、その頭上にさらに高々とジャンプした日向が、その脳天に大上段から刀で斬り付けた。
斬撃の衝撃で体が折れた所に、その胸めがけて窈狼がたっぷりスピードとウエイトを乗せた突進からの飛び蹴りを叩き込む。
たたらを踏んで後退したところに、今度は光と晃の波状攻撃が襲う。
「雷靱拳!」
「龍連牙!ヨッ!ハッ!ウリャアッ!」
雷を纏った光の鉄拳を顔面に、晃の肘と蹴りの三段攻撃を腹部にそれぞれ喰らい、今度は巨蜂が大きくグラつく。
しかる後、麗がダメ押しに巨蜂を後頭部から羽根の付け根がある背までダガーで真っ直ぐに斬りつけると、そのまま地面にズズゥンッ!と倒れ込んだ。
「ぽ、ポイゾニックワスプード!なにやってんのよっ!?しっかりしな!」
「っしゃあ。今だな。オイ!ヒナ!」
「うん!わかったレイちゃん!ユウナ!ジュエルモンスターをっ!」
「え?・・・あ、うん!」
サキと睨み合っていたところに、突然聞こえてきた日向の呼びかけ。
振り返った瞬間広がった光景に、日向の呼びかけの意味を理解した悠奈はサキに背を向けてジュエルモンスターの方へと走り出した。
「なっ!?ちょっ・・ドコ行こうってのよ!?アタシを前にして逃げんじゃないっ!」
「おおっと、そこまでだ」
突然自分との対戦を放棄して踵を返した悠奈に突っかかって行きそうになったサキの目の前に今度は自分が相手だと言わんばかりに宙から飛び降りてきた影が立ちはだかる。
「!・・・東・・レイ!」
「なんだオレのコトも知ってんのか?悪りぃがアイザワはアッチで大事な用事ができちまってな。ジュエルモンスターの浄化は悔しいけどアイツにしかできねぇんでな」
「おとなしく退いた方が身のためよ?アタシの魔法の餌食になりたいならハナシは別だケド?」
「ひゅうっ・・・流石だねえ。ダークチルドレンズの頭ぁ張ってるとか吹いてるだけのこたぁあるじゃねえか。テメェぐれえのトシの、しかもオンナのガキに喧嘩売られたなぁ初めてだぜ?楽しませてくれんだろうな?」
背後でそんなやりとりが行われているコトなど気にする余裕もなく、悠奈は一目散に日向たちのもとへと急行する。
ジュナの命令で蝙蝠と蜂のモンスターが何体か悠奈へと迫って来たが、咲良と那深が攻撃魔法の連携でモンスターを迎撃してくれた。
「ユウナちゃん!しっかり!」
「ココはあたいらにまかせて、オマエはあのデカイのを頼むぜっ!」
2人の言葉に笑顔で小さくうなづく。眼をやれば巨蜂が体勢を立て直そうと動き出しているところだった。
今しかない。
「みんな!」
「ユウナ!今だ!」
悠奈は大きく頷くと、目の前の巨蜂のジュエルモンスター、ポイゾニックワスプードに向けてハートフルロッドを真っ直ぐに突き付け意識を集中した。
「悪い心は、聖なる光で飛んでいけ!シャインハートフラーッシュ!」
ロッドから放たれる、ハート型の桃色の閃光。
光りに包まれたジュエルモンスター、ポイゾニックワスプードは「ギギ・・ギィ〜・・・」と光の中で浄化され、紅のダークジュエルがその中でジュッと溶けて消滅する。
やがて光の中から小さな小さなミツバチが現れ、何事もなかったかのように公園内の花畑に消えてゆく。
ジュエルモンスターが消滅したことで、辺りを覆っていた闇の魔力が急速に弱まる。
ジュナはまさに悔しさに顔を歪めて、これ以上は駒の無駄だとでも思ったのか?
場に残っていた召喚モンスターもすべて召喚玉を取り出してゲートを開くと、
「戻れ!召喚モンスター!」
と次々とその中にモンスター達を回収する。
「サキ!」
「くぅっ・・・もぉっ!なによなによ!せっかくイイカンジだったのに・・・」
「ココまでだな。で、どうすんだ?まだやるか?威勢よくケンカ吹っ掛けてきた割にゃあこの程度か?まぁ、アイザワのヤツにもこの前やられたような腕だしな。大方こんなモンだとは思ってたケドよ」
と、自分が手を出せないうちにジュエルモンスターを討伐されたサキは、目の前で皮肉っぽくそんなコトを言ってくる麗を燃えるような瞳で憎々し気に睨み付ける。
チアキから話は聞いてある程度予測はしていたが、この東麗、強い。
喧嘩慣れしているのかどうかは自分は知らないが、明らかに闘い方を心得ている。
悠奈や自分のように魔法で攻撃してくるワケではないから、決して攻撃魔法などが得意なのではないだろうが、先程から至近距離でファイアボールなどを乱発したり、エリザベートで斬りかかったりしているものの、素早いステップと状態移動ですべて躱されてしまっているのだ。
しかも相手は全く攻撃してこない。単純に手を抜いている。
その事実がサキの中に今までにない焦りを感じさせていた。
悠奈以外のメンバーの実力。
今になってその脅威がサキの心の中に鉛のようなプレッシャーとなって重くのしかかって来ていた。
「レイ!」
「おう。終わったみてえだな。お疲れ」
「レイこそ、どっかケガとかしてないの?大丈夫?」
「誰にモノ言ってんだ。余裕に決まってんだろ。さ、用はすんだからもう帰ろーぜ。ああ・・たりぃ・・・」
と、そんなやりとりをする悠奈と麗の元に、戦いを終えたメンバー達1人1人が駆け寄る。遠巻きに見ている大人たちも、巨大なモンスターが光の中で消滅したことに、戦闘が終了したと理解して、安堵の溜息をついた。
「京・・・今、あの巨大な怪物を消滅させてのは・・・」
「ああ、あの例のユウナちゃんだよ」
「スゴイ、あんな小さな女の子が、あんな凄まじい技を使うなんて・・・」
「魔法です。アレがあのコたちの力ですわ。ちづるさま、どうです?もっとあのコたちを信じてもいいのではないでしょうか?」
そう柔らかな微笑みを投げかけてくるイリーナ。ちづるもそのイリーナの表情を見て、ようやく理解したように小さく笑顔を返した。
しかし、そんな戦勝ムードの中、不意に小さな事件が起こる。
「ユウナぁーッ!」
「!・・・きゃあっ!?」
ふとそんな怒号を耳にして、悠奈が振り返ると、その瞬間に真っ赤な火球が悠奈に襲い掛かった。
ドオンッ!という轟音。
広がる白煙。
「ユウナちゃん!」「ユウナ!」というレイアと日向の悲鳴に近い声が響き、場のメンバー達が凍りつく。
遠くで見ていた大人達もその光景に息を呑む。ヴァネッサなどは派手に悲鳴を上げて駆け出しそうになるところを近藤に止められたくらいだ。
やがて白煙の中から悠奈の姿が浮かび上がる。
真っ直ぐにハートフルロッドを構えて目をぎゅっと閉じていた。
どうやらケガはしていない様子。反射的にロッドを構えてファイアボールをロッドが打ち消してくれたのだ。
変身を解く前でよかった。
眼を開くと、目の前には怒りの相貌で自分を睨み付けながら、掌を前に翳しているサキの姿があった。
「い、いきなりなにすんのよ!もう戦いは終わったでしょ!?」
「さ、サキ!アンタいくらなんでも・・・っ」
「うるさいっ!まだ終わってない・・アタシはまだ、負けてないっ!」
あまりの卑怯な不意打ちに側にたジュナですらもがサキの行動に異を唱える。
そんなに悔しかったのか?ともすると悠奈には不意打ちまで仕掛けてきたサキが逆に可哀想に思えてきた。
「このガキ・・・」と麗が暗い瞳で毒づいて殴りかからんばかりの勢いになった時、サキの目の前に割って入った影。
「悪りぃな。カンベンしてやってくんねえか?」
「!・・・っテメ・・」
「お、オマエは!」
「!・・・あ、アンタ、いつの間に!?」
「ユイトくん!」
「あーーーーっっ!ヘンタイオトコっ!」
「オイオイ、相変わらずヒデエな。ヘンタイとか・・・よ!ユウナ。元気してたか?」
「アンタに聞かれたくなっいってのバカじゃん?べ〜〜っだ!」
そんな返事の悠奈に笑ってから、その彼はサキとジュナの方へと向き直った。
「さってと・・・ケンカも終わったし、そろそろ帰るか」
「ちっ・・ちょっとなに勝手に決めてんのよ!?アタシまだ・・っ」
「負けたじゃねーか。フツーに。シンプルに」
「し〜しっし!そーそー♪負けた負けた♪カッコわりぃ〜♪」
「〜〜〜〜〜〜〜っっっ!」
「ジュナも行くぞ」
「え?・・・あ、うん・・・」
「オイ、テメエ待てやコラ」
と、もはや悔し涙を必死に堪えて睨み付けるサキと、背後で呆気に取られていたジュナを連れて引き揚げようとする少年。
ヤオトメ・ユイトに日向よりも先に麗がそう呼び止めた。その言葉に足を止めてユイトが麗の方を振り返る。ユイトの傍にいたフェアリー、蒼い雑髪の短髪がところどころ跳ね返ったようなクセっ毛で、猫のようなツリ目、いたずらっぽい表情でニシシと笑うロッカーのようなジャケットにブカっとしたデニムズボンを纏ったレムも麗の方を見て「あー、コイツこの前もユイトにケンカ売って来たヤツだぜ!」と指さした。
確認して麗は自分の変身を解くと、「ちょ・・ちょっとレイ。どーするつもり?」と聞いてきた悠奈を片手で制してそのまま前に進み出、さらに言葉を続ける。
「いつもいつも余計なトコロでしゃしゃり出てきて、一体どーゆーつもりなんだテメエ?そのガキがアイザワにやったマネ見てたのか?そのまんまで帰すワケねえだろうが」
「東・・だっけ?結構やるみてえなんだよな。オモシロそうだケド、今はオマエにかまってるヒマねえや。また今度遊んでやるからよ」
「嬉しいねえ、ケド遠慮するこたぁねえだろ?遊びてぇなら・・・」
嬉々とした表情で麗は一言嘯(うそぶ)くと、わずかに軸足の重心を後ろにあずけて体を沈ませると・・・
「今遊んでけやぁっ!」
地面が抉れる程に蹴って、眼にも止まらぬほどのスピードで一瞬にしてユイトの懐まで飛び込み、そして上背のあるユイトの顎めがけてアッパーを叩き込んだ。
『!!』
その場一同が驚愕した中、一拍遅れて肉と骨が衝突し合う鈍い音が ガッ と響く。
瞬時に離れる両者。
ユイトの頬に斜め下から走っている真紅のライン。顎への直撃は避けたようだが、しっかりと麗の拳の爪痕が刻まれていた。
しかし、悲鳴が上がったのはセイバーチルドレンズの子ども達からだった。
「!・・れ、レイ!」
「レイちゃん!」
「きゃあぁ〜〜〜っっイヤあぁ〜〜〜っっレイちゃぁ〜〜んっ!」
「さわぐんじゃねえっ!」
悠奈、日向、そして麗奈の絶叫が重なる。
離れて自分達の方へとバックステップで退いた麗の口が真っ赤に染まっていたからだ。
口元に滴る血を麗が拳で拭う。歯は叩き折られてない、口内が切れたのだろう。
ペッと血を地面に吐く麗。
「やるじゃねえかヒガシ。大したスピードだぜ、おまけにパンチもたっぷりとウエイトも乗ってて一撃必殺ってヤツか?なるほど、チアキじゃ相手にならねえワケだ」
「へっ・・・余裕ってか?そのうちかましてられなくなんぜ?」
(マジか?先にオレの拳が届いたはずなのに、逆に芯を外してオレの方に深く拳をカウンターで入れてきやがった・・・コイツは・・・)
麗は今の一触でユイトというこの少年が、他のダークチルドレンズと比べて実力が2、3段階はレベルが違うと肌で感じた。
もしかすると自分や光、晃などよりも?
麗は呼吸を深く吸い込むと、拳を強く握り込んで肩を回した。
「本気で殺(ヤ)ったらぁ・・・」
「いや、今はダメだよ」
そんな臨戦モードMAXだった麗に、10メートルほど離れた、先程ジュエルモンスターが暴れていた広場の方からかけられた声。
みんなが目を向けると、いつかの仮面の少年がそこにいた。
ユイトといいいつの間に?傍にはちゃんと彼のパートナーらしい、ティトといわれたフェアリーもいる。
「あ、アナタ・・・」
「セイバーチルドレンズのみんな。ありがとう、無事ジュエルモンスターを討伐できたようだね」
「ハっハぁ!褒めてやるぞ!それでこそこの僕に仕える資格があろうというもの!ようし、特別の計らいでお前たちみんな今すぐ僕の家来にしてや・・・」
「ティト。すまないね。東くん、キミももういいだろ?ヤオトメ・ユイトの実力はわかったハズだ。彼はまだ全力じゃない。キミもよくわかっているだろう?今は戦うべき時じゃないよ、日向くんもね」
そう言いながら、悠奈たちの方に近づいてくる仮面の少年。
いきなり言われてちょっと顔を紅くして憮然とした表情を見せる日向と、正面から彼を見据えて動かない悠奈。
ユイトはユイトで、さも面倒くさそうに短く息を吐き、サキやジュナも怪訝な表情を向ける。
「またテメエか?いつもいつも一体全体なんだってんだテメエは?あ?そもそも何モンなんだよ?」
「ハッハッハ!ついに名乗る時が来たようだな!よく聞け下賤の民どもよ、僕たちこそが・・・むぎゅぐっ・・・っっ」
「すまない。今はまだ名乗る時じゃない。だが1つだけ言っておきたいことがある。僕はキミたちにとって敵じゃない。それは、キミたちにだって言えることだよ?サキさん」
「あ、あんた、なんだってのよ?いきなり現れて敵じゃないとかなんとか・・・そんなコト言ってるヤツがイチバンアヤシイのよっ!」
「そ、そうよっ!大体仮面で顔隠してるようなヤツに信用出来るヤツなんていないってむかしママが・・・いや、テレビで聞いたコトあるわよっ!」
サキやジュナもそんな批判めいた声を上げる中、仮面の少年剣士は真っ直ぐとユイトのほうへと向き直って言った。
「今はココまでだ。いいな?ヤオトメ・ユイト」
「あ〜、ウゼー。言われなくてもやんねえよメンドくせぇ。よし、オメエら帰んぞ?オラ、サキ、暴れんなって・・・」
「はっ・・・はなしなさいよっ!はなしてっはなせったらぁっ!」
「ケッ!いっつもながらなんだオマエそのフリフリの服!男のクセにだっせぇの!女みてー♪キシシ♪」
「なっ・・ぶっ・・無礼者!ボクの高貴な衣装を愚弄したなっ!コレはダサいのではなく気品の表れであって・・・」
「レム、絡むな。じゃあなヒガシ、中々楽しめたぜ、またやろうぜ?ヒナタもな?」
「う、うるさいっ!気安く呼ぶなっ!」
「と、それから・・・愛しのユウナ〜vまた会おうぜ。今度はちゃんとデートしてくれよな?」
「っっ・・・〜〜バッ・・ぶぅわっかじゃないのっ!だ、ダレがアンタとなんかっ!///ああんもぉっ!とっととどっかいっちゃえぇ〜〜っっ!///」
顔を真っ赤にして喚き散らす悠奈を見て、満足そうに笑って、ジュナを連れ暴れるサキを小脇に抱きかかえて、ヤオトメ・ユイトはその場を後にした。
ダークチルドレンズが完全に立ち去った後、回復した辺りの魔力が戻り、損壊したところが立ちどころに修復され、辛そうに眠っていた人たちも意識を取り戻し、狐につままれたような顔で辺りを見渡していた。
「どうやらもう心配ないようだな。僕らも行こうかティト」
「なっ・・まだ名乗らないのか!?いい加減にしろ!いつまで自分で自分を追い詰めるつもりなんだシ・・っ」
「ティト」
言われてティトが慌てて口をつぐむ。
そのまま仮面の剣士は悠奈の方に近寄ると正面から彼女に言った。
「着実に成長してるみたいだね、ユウナくん。忘れないで、キミのその強い心が何より強い魔力になるんだから」
それだけ言い残すと、仮面の少年は悠奈の「え?ど、どういうコト?」という質問をみなまで聞かずにその場から足早に立ち去った。
「すばらしいわぁ〜、みんなありがとう!今回もライドランドをダークチルドレンズとジュエルモンスターの脅威から守ってくれて、これでエミリーの野望のための魔力がまた1つ阻止できたわ」
「よかった、なんかアレだよね。イリーナさまにそう言ってもらえるとさ、なんかがんばってよかったって、思えるんだよね。ねえ?ヒナタくん」
「うん!これからもみんなでガンバっていくからさ、安心してね」
その日向の声に他のメンバーも笑顔でイリーナに頷く。麗だけはなにやら半ば呆れ気味の表情で、「おうおう、安請け合いしちまってまぁ・・」と小さく呟いたが。
ダークチルドレンズが去った後、広場で多くの人々が一時気を失っていたらしいとの知らせを受け、数人の警官隊が駆けつけては来たが、付近に不審物危険物が無いコト。情報自体がそもそも不正確なモノであったことから、それほど騒ぎにもならず、公園内は元の通りの喧騒を取り戻していた。
変身を解いた悠奈をはじめとするセイバーチルドレンズのメンバー達も、平和になった広場の一角で、戦局を見守っていたイリーナや京たちなどと合流したところだ。
イリーナの言葉に続いて、はじめて悠奈たちの変身やダークチルドレンズとの戦いを見た神楽ちづるが前に進み出た。
「ユウナちゃん、ヒナタくん。見せてもらったわ。アナタたちの力を、スゴイ力を持っているんですね。アレが魔法というモノなのね、イリーナさん、わたしにもやるべきコト、できるコトがわかりましたわ」
「まあ、ちづるさま!ソレは本当ですの?」
嬉々とした表情で答えるイリーナに「ええ」と短く答えてスマホを取り出すと、ちづるはどこかへと素早く連絡した。
「ハイ。そうです。ええ、ですからよろしくお願いします。ハイ、ハイ、後のことは・・助かります、どうも。それじゃあ・・・」
「?なんだ、誰に電話かけてたんだよ神楽」
「ウチの副社長にです。まぁ、社長と言われるわたしよりも、神楽神具の業務内容や営業にはよほど精通してますので、実質はナンバーワンですが・・・しばらく神楽神具の運営に関してはわたしの判断を仰がずともすべて一任する。と連絡しました」
それだけ言うと、神楽ちづるはもう一度イリーナに向き直り、彼女に向かって決意新たにこう言った。
「イリーナさん、わたしも心は決まりました。わたしも同じく、グローリーグラウンドの回復のためにしばらく力を傾けて当たることにします。当分は社の方にも顔を見せなくて大丈夫なよう手配しましたし、出来る限りの協力はできるハズですわ」
「まぁ、それは本当に?ちづるさま・・・そこまでわたくしたちのために力を注いでいただけるなんて・・・なんとお礼を申したらよいか・・・」
「乗り掛かった舟、とも言います。それに今回のコトは、うちのナナミにとってもいずれ神楽家の一員として成長していくにしても大きな機会かと思いまして・・・」
「は?ウチがなんやの?」
「聞いたわね?ナナミ。明日からしばらくちづるお姉ちゃん、アナタの家にご厄介になることにしましたから♪」
「ええぇぇぇ〜〜〜〜〜〜っっっ!!??」という七海の絶叫に近い悲鳴が広場に響きわたる。悠奈や日向もビックリしたような面持ちを向け、京も目を大きく見開いていた。
「オイオイ、神楽、一体どういうコトだよ?」
「なんでぇ〜〜っ!?ちづるねーちゃんが!?ウソやんっ!どぉして!?」
「見てたわよ。アナタの戦い方、結構やるじゃない。魔法とかいうものを駆使して堂々と戦っていたわね。でもまだ動きに無駄が多い。わたしが神楽流の戦い方を教えてあげる、そうすればこの先、危険な戦いに身を投じる上できっとアナタの役に立つわ。早速明日からはじめましょう。場所も手配してあります。先程近藤先生にお願いしたら、JTスポーツクラブ内の近藤先生の道場の一室、お貸しいただけるコトになったわ」
本当にありがとうございます。これからよろしくお願いしますね。と言いながら勇蔵に頭を下げるちづるに、「なんってぇ、行動の早いヤツ・・・」と小さく呟いて顔を引きつらせる京と、それ以上に引きつった青い顔を浮かべる七海。
「ジョーダンちゃうわ・・・ママだけやなくて、ばーちゃん近場におんのに、トドメにちづるねーちゃんと一緒に住むん?ありえへん・・・」
「?ナナミ、なんかイヤなの?」
「アホぉ・・・サイっアクや・・・場合によっちゃママより・・・」
「ナナミ、これからは規則正しく、神楽家の一員として恥じないように指導してあげますからね。サボリや怠けはゆるしませんよ?」
そうちづるに言われてあからさまにビクついた七海を見て、悠奈は(ああ、だからか。)と納得したように同情した。
ややあって、時計を目にした土方歳武が勇蔵に声をかける。
「勇さん、そろそろ子ども達は帰る時間じゃないか?晩飯時も近いだろう」
「おっと、気づけばもうこんな時間か。よし!任務は無事に終わったな。ヴァネッサさん、じゃあ子ども達を・・」
「ええ、責任をもって送り届けます♪あらヤダ!早くしないとサトーミッカドーのタイムセールの時間じゃない!わたしも早く帰らなきゃ」
「おぉ〜っ!よし、ソレなら先に帰ってろ!オイ、みんな!お楽しみはこれからだろうが!どっか遊びに行くぞぉ!」
「ええ!?ホント京にーちゃん!」
「やったあっ!さっすが京にーちゃん、大好きぃ〜vユウナも一緒に行くやろぉ!」
「え?あ・・・うん」
と、子ども達を送り届けようとした矢先に京からこんな声が上がり、その場にいた子ども達がみんな一様に大盛り上がりの歓声を上げる。
「オイ!京くん、このバカが!子ども達はもう帰って明日の学校の準備をして休む時間だ!過酷な任務には健全な生活習慣と体が何より大事で・・・」
「かてえコト言ってんじゃねえよ、たまにゃあいいだろうが。オレがキチンと責任もって送り届けてやっから。ヴァネッサさんも、もう今日は大丈夫だぜ。早くしねえとタイムセール間に合わなくなっちまうぞ?神楽お前も来いよ」
「はぁ・・・アナタって人は・・近藤先生、今日のトコロはわたしも責任を持って子ども達の面倒見ますので、大丈夫ですよ」
「し・・・しかし・・・」
とそう言われても納得できずに苦い顔をしている勇蔵と呆気にとられるヴァネッサ、土方歳武を尻目にどんどん京と子どもたちは盛り上がっている。
こういう時は普段利発な陽生もやはり年頃の男の子なのか、京の誘いに飲まれてしまっている。
「よぉっしゃ、ちょうどいいから紅丸!オマエ今日サイフだサイフ!支払い任せたぜぇ〜v」
「ああん?テメコラ、っざけてんじゃねえぞ!ダレがサイフだ、どーせ俺にたかるハラなんだろうがこのビンボー人が!テメエなんぞのために1円だって出せるか寝言ほざいてんじゃねえぞ、ったく!」
「まぁ、ベニマルさま!子ども達を労ってくださるんですの!なんてステキな方なんでしょう。わたくし感激ですわ。わたくしもご一緒してかまいませんこと?」
「よぉ〜〜ろこんでぇ〜〜〜wwイリーナちゃぁ〜んっ♪(。^ω^。)ノ っしゃあっ!ついてこいテメエらぁ〜!今日は俺様のオゴリだぁ!盛り上がるぞぉ〜〜っw」
と、哀れ近藤先生の教育熱論はどこ吹く風。
京と紅丸に引き連れられ、きゃらきゃら楽し気に歓声を上げながら、子ども達は夕方の街へとフェードアウトしていった。
みんなともそうだが、ヒナタと一緒に遊べるコトに胸躍らせる悠奈もまた、他の子ども達と同様、日向、七海、窈狼とはしゃぎながら、聖星町の街へと繰り出していった。
なんとなく思い出せない一抹の疑問を残しながら・・・。
(なんか忘れてる気がする・・・なんか、置き忘れてきちゃったよーな気が・・うぅ〜ん・・なんだっけ?まぁ、いいやw)
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同時刻。
神楽神社。
「きゃっ!もうこんな時間!すっかり楽しんじゃった・・・ユウカちゃんも保育所にお迎えに行かなきゃならないし・・・」
「あらホント、わたしも帰ってゴハンの用意しなきゃ!萌もそろそろお腹空かせてる頃だろうし」
「主婦はこういう問題ありますもんねぇ〜・・ウチのヤオも、アタシが仕事や撮影の時にどうしても外食や出前になっちゃうから、普段レトルトや出来合いの総菜イヤがって・・それでいてスキキライはしっかりあるモンだからもうタイヘンで」
「いやいや皆さん、私も皆さんとお話ししていたら時間も忘れてすっかり楽しかったですよ。でもでもどうして、みなさんご家族のためにいつもご尽力なさっていて大変だ。頭がさがりますよ、母は強しですねえ」
「それ、ウチのダンナさまにも言うたってやパーシーさん!主婦にもお給料あげなアカンってwあ、パーシーさんからいただこかな?w」
「コラ、しぃ、意地汚いコト言わんの。ホンマにこのコはナナにうつるで?時に・・やけどパーシーさん?」
「?ハイ、なんでしょう?」
「アンタさん・・・今日、どこ泊まらはるん?」
と、神楽神社にて、すっかりママ友たちと打ち解けて一緒にティータイムを堪能していたパーシーに、神楽櫻子がしみじみとそう言った。
途端にしぃ〜〜んとするその場一同。
一拍置いて、パーシーがボリボリと頭を掻きながら言った。
「はぁ・・・どうも。えぇ〜・・なにやらユウナさんがなんとかする・・という風に言ってくれてはいたんですが・・まだ帰ってきてませんねぇ。その先のことも何も聞いてませんで、はぁ・・こりゃまいった!これじゃ宿無しだ!いや愉快愉快!ぎゃっはっはっはっは!」
つ づ く